介護の勉強をしていると、「受容しましょう」「あるがまま受け入れましょう」という言葉を良く聞きますね。現場でも言われる言葉ですし、介護を学ぶ研修でも多く耳にすることでしょう。
その時はなるほどと思っていても、いざ現場になると実践が難しいのが「受容」です。
そこで今回は、介護の用語について学びたい方、考えるだけでなく、現場でどのように「受容」を実践していけばいいのかを検討していきましょう。
これから認定介護福祉士を目指す人も、必見の内容です。
受容とは、個別援助及び集団援助の原則の一つで、利用者のありのままの姿を無条件で受け入れることをいいます。
援助者は自らの価値観で判断するのではなく、受容することによって、利用者は否定的な感情にならず、利用者自らの受容を促すことができます。
受容は、「バイスティックの7原則」の一つです。
受容は、カウンセリングの最も基本的な技法の一つでもあります。 引用ココマデ
出典:介護福祉用語辞典
上記に出てきた「バイスティックの7原則」とは、わかりやすく要約すると以下の通りです。
似たようなケースの問題が多々あったとしても、個人の問題として1つ1つをとらえること。
援助者は、要介護者が自由に感情表現ができるように務めること。
要介護者の気持ちを理解しつつも、援助者は自分の感情まで流されないようにする。
要介護者の考え方を頭から否定することなく、どうしてそう思うのかを理解する。
要介護者の行動や意見に対して、援助者は良い悪いの判断を付けるべきではない。
自分の行動を要介護者自身で決め、自分で解決できるように促すこと。
個人情報保護を厳守する。
この原則3の受容の原則は、個人自身を受け入れることであり、社会のルールに反することを受け入れることは別とする考え方が重要になります。受容し受け止める対象は現実なもの、ととらえることが大切で、7原則の中でもこの原則を理解するのにはしっかりとした理解と注意が必要になります。
受容とは、介護者が利用者の話や行動を価値判断せずに、あるがままに受け入れることです。介護に携わる人にとって、大切な対応原則です。
利用者の個性、考え、行動を自分の価値観に照らし合せて判断するのではなく、「なぜこう言うのだろう。なぜこのような行動をしたのだろう」と受容し理解しようと努めることにより、利用者は自己防衛の必要がなくなり、安心して自己を自由に表現できるようになります。
聞くだけなら簡単そうなのですが、受容は、とても難しい技法です。
なぜなら人はみな自分の価値観で生きているからです。
利用者、介護者共に心身ともに調子の良い時であるとは限られませんし、
まったく違う価値観を言われる時もあります。
受容するには、介護者の心の余裕と多様な価値観を受け入れる柔軟性が必要です。
相手のいいところも悪いところもまるごと受け入れるには、自分の価値観を横に置いておかなくてはいけないからです。真の「受容」とは利用者の感情を積極的、能動的に受け入れることです。
具体的に考えてみましょう。
例えば、盗みをした利用者がいたとします。
その場合、窃盗という罪になりますが、その罪を認めるのが受容でしょうか。
盗んでも良いとするのでしょうか。
違いますね。大切なのは「なぜ盗んだのか。なぜ盗みをしなくてはいけなかったのか」
その原因を理解しようと努めて、そうせざるを得なかった気持ちを受け入れることが「受容」です。
つまり、表面化している現象に目を奪われるのではなく、その人なりの問題の意味を理解しようとする客観的な態度が必要なのです。
受容していないと、行動だけに重きを置いてしまい、盗みがわかった場合「何しているのですか」と怒ったり、責めたりしてしまうかもしれません。
しかし、まず受容すると、「どうしたのですか?なにかあったのですか?」と聞くことが出来ます。
そこで利用者が「自分の物だ」と主張したとしましょう。
受容していると、「利用者は自分の物だと思った」事を受け入れたうえで、他の人の物であることを伝えることが出来ます。
初めから「盗んだ」などと言われてしまうと、自尊心が低下してしまい、問題解決にはならないですよね。
受容することを対応原則にしていると、利用者に対しての言葉遣いや対応が変わることがわかりますね。
利用者の行動や態度を受容することは、介護する側と利用者の信頼関係を結ぶうえでも重要になります。どんな利用者でも人として敬意を払うことを忘れてはいけないですね。
それでは、利用者に死にたいと言われたらどうしましょう。
焦って「そんなこと言ってはダメです」と否定しますか?
もちろんダメですが、死ぬのを援護しますか?
この場合の『受容』は「死にたい」という利用者の言葉を受けとめてから、「死にたいと思っているのですね」「死にたいくらい辛いのですね。」と答えることです。
その人がその瞬間にそのような気持ちにあるということを理解し、介護する自分にも伝わっているということを伝えていくことが大切ですなのです。
「受容した対応」をするのです。
受容するとき、表情や態度、声のトーンや手振り身振りにも気を付けて、利用者が、自分の気持ちをわかってくれたと感じるように、何より不快にならない様に心掛けることも大切です。
人間がコミュニケーションをとるときには、つい言語だけに重きを置いてしまいがちですが、実は非言語での情報が多く伝わります。
ボディランゲージ、目線や、沈黙、身体接触などにも気を配ることが大切です。
うわべだけでの理解では信頼関係を気づくことは出来ないですからね。
受容したとき、それが相手に伝わるようにどのように伝えたらいいか非言語コミュニケーションについても学ぶと良いと思います。
非言語コミュニケーション研究のリーダーの一人であるレイ・L・バードウィステルは、対人コミュニケーションについて次のように述べています。「二者間の対話では、言葉によって伝えられるメッセージが35%、残りの65%はジェスチャーや表情、会話の間などの言葉以外の手段によって伝えられる」
出典:Ofee
もしあなたが相談をしていて、十分に話を聞いてもらっていないのに「こうしてみたら」とすぐにアドバイスをされたとしたら、どう思いますか?
信頼関係が出来る前でしたら、「自分が悪いのかな」「否定されたのかな」と思ってしまい、心のうちを正直に話そうと思いにくくなってしまいますね。
あせらずに、まずは受け入れてもらえていると感じられたとき、そこで初めて自分の悩みを相談することが出来ますよね。まずは、利用者に安心を抱いてもらえるような雰囲気作りを大切にすると良いと思います。
また、相手を否定せずに「そんな気持ちだったのですね。」「あなたはそう思ったのですね」など相手を受け入れようという態度のことを「受容的態度」と言います。
受容的態度で話を聞いていこうとする姿勢は、相手が話しやすい雰囲気を作っていくのに役立ちます。
そうは言っても、人数や時間が限られている介護の現場で、いつも寄り添うのは難しいでしょうか。
ゆっくり話を聞く時間なんて取れないでしょうか。
そんなことはないはずです。
ベッドから起き上がる時に手を貸している時、排せつ介助の時や着替え介助の時、食事の時、余暇の時などで話をする時間等、要介護者と接している時間は多くあります。
その時、「受容する」と意識しているだけでケアの声掛けは変わってくるはずです。
また、コミュニケーションを取るうえで合わせて大切なことに、「傾聴」と「共感」があります。傾聴とは、ただ要介護者の話に耳を傾けることではありません。話を聞くことにより、話の内容だけではなく、さらに要介護者自身のことをわかろうとしていると感じさせるような真摯な態度で耳を傾けることです。また、共感は、要介護者の気持ちや価値観、希望などを一緒に感じ取っていくことです。こちらも要介護者に、自分のことを共感してもらえていると感じてもらえるような態度をとっていくことが大切です。
受容と合わせて、傾聴と共感を意識することで、要介護者は、より一層、自分を受け入れられたと感じ、スムーズなコミュニケーションを築くことができるでしょう。
いかがでしたか?
利用者にとって、よりよい介護者になろうと思った場合、介護の用語を学び、それを理解していくことはとても大切なことです。
「受容」だけではなく、バイスティックの7原則など介護の用語からケアの本質を見、理解していくことで、ケアの質が向上し、現場での支援がしやすくなると良いですね。ぜひ役立ててみましょう。