介護職に就いている方や、介護業界に興味があって転職を考えている方の中には、介護保険法について、あまりよく知らない方も多いのではないでしょうか?
介護に携わっている方でしたら、介護保険法について、そのアウトラインを知っておく事はとても大切です。
今回は、介護保険法は理解しにくいという方のために、その概要を分かりやすくお伝えします。
是非、最後まで読んでみてください。
まず、条文を少し見てみましょう。
介護保険法 第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定め、もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする。
出典:介護保険法
介護保険法は介護を必要とする高齢者の方のために、治療や介護に掛かる費用などを、社会全体で支援するための保険制度です。
介護を要する方達は、日常生活を円滑に送っていけるよう支援サービスを受ける権利があります。
しかし、そのサービスを受けるには、本来、多額の費用がかかってしまい、経済的負担は非常に大きくなります。
そこで、本人やご家族の負担を減らす事ができるよう設定されたのが、介護保険法なのです。
具体的には、介護保険法を利用した場合、介護にかかる費用の自己負担分は、1割になり9割は保険で支払われるため、10000円かかっても、払う金額は1000円ですむ計算になります。
※一部核当者、2割負担
介護保険には国が管理、運営する公的なものと、民間企業が販売している保険の2種類があります。
公的介護保険は一般的に利用されているものですが、民間の介護保険とどこが異なるのか比較してわかりやすく紹介します。
◇加入について
手続きなどはなく、40歳以上になると自動的に加入することになり介護保険料として現在の健康保険から介護保険料が差し引かれます。
◇利用できる対象者
基本的には65歳以上で、要介護状態、要支援状態になった方が対象ですが、政令で定められた疾病(※特定疾病)であれば、40歳~64歳の方でもサービスを受ける事ができます。
特定疾病の範囲
特定疾病については、その範囲を明確にするとともに、介護保険制度における要介護認定の際の運用を容易にする観点から、個別疾病名を列記している。(介護保険法施行令第二条)
1. がん【がん末期】※
(医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る。)
2. 関節リウマチ※
3. 筋萎縮性側索硬化症
4. 後縦靱帯骨化症
5. 骨折を伴う骨粗鬆症
6. 初老期における認知症
7. 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病※
【パーキンソン病関連疾患】
8. 脊髄小脳変性症
9. 脊柱管狭窄症
10. 早老症
11. 多系統萎縮症※
12. 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
13. 脳血管疾患
14. 閉塞性動脈硬化症
15. 慢性閉塞性肺疾患
16. 両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
(※印は平成18年4月に追加、見直しがなされたもの)
出典:厚生労働省
◇介護保険の給付を受けるための申請
介護保険の給付を受けるには、要介護・要支援認定の申請を行うことが必要です。
また、サービスを開始し給付を受けるまでに約一カ月かかります。
◇支給形態
現金ではなく、介護サービスを受けることで適用され、支払いの際にすでに保険負担分が引かれて請求される形での給付になります。
◇加入について
民間の介護保険の加入は、自分で保険会社を選び加入手続きを行うことになります。
また公的介護保険が40歳からであるのに対し、民間介護保険は20代からでも加入できるところもあり、入りたい時に加入することができます。
◇利用できる対象者
民間の介護保険では、保険会社がそれぞれ独自の基準を定めている非連動タイプと公的介護保険の要介護度に沿った連動タイプがあり、対象は各保険会社によって異なります。
◇給付を受けるための申請
民間の申請方法は各会社により異なるため、加入している保険会社に問い合わせ手順に従い申請します。
また民間の介護保険では、保険会社で指定された基準があり、要介護状態が指定期間続いた状態でないと給付金がでない契約などがあるため契約時に内容を確認することが必要です。
◇支払い形態
民間介護保険では、契約した際の決められた金額が現金で支払われます。
一般的には、まとまった金額を一度に受け取れる一時金型と、定期的に受け取れる年金型があり、両方兼ねそなわったものが多くなっています。
介護保険法は、比較的新しい法律です。
介護保険法ができる前は、主に健康保険にて、介護を受ける人の負担が軽減されていました。
昭和48年(1973年)には、老人福祉法(1963年制定)改正に伴い、高齢者(70歳以上/条件付きで65歳以上も可)の医療費自己負担額は、無料で行われていました。
しかし、高齢化が進むにつれ、無意味な診療や複数病院での診療の増加、病気による長期入院により、身内がいなくなると一人での生活が困難になるため、治療は終了していても、退院後の受け入れ先がなく、入院し続ける「社会的入院」が問題となりました。
社会的入院は、医療費の増大やベッド数の不足など、非常に大きな問題ですが、現実問題介護してくれる家族がいなかったり、病院からの引き取りを家族が拒否するなど、簡単に解消できる問題ではないのです。
高齢者の医療費歯その後も増加し続け、1973年には、10年間で高齢者にかかった医療費が10倍にものぼりました。
その後、1983年、医療費定額負担をきっかけに、2002年には1割負担とし、高齢者に対する負担額が増加しているのが現状です。
また、昭和38年(1963年)制定の老人福祉法も、高齢者対象の公的制度であり、医療費の負担や、老人福祉センターや特別用語老人ホームなどの老人福祉施設の設立が行われましたが、利用者が施設やサービスを選べず、受け入れ施設が不足するなどの問題が発生しました。
介護保険は、3年に一度見直されることになっています。
それというのも、進む高齢化社会への対応として、人材の確保やそれにかかる財源についてなどが大きな問題になっているため、一度に解決できるものではなく、統計を基に少しずつ対応していく必要があるからです。
では、今回(平成27年度)に改正された介護保険法ですが、何がどのように変わったのか、簡単にいくつかのポイントにまとめて解説します。
介護サービスにおける費用負担を公平化するため、年金を含めた収入が年間280万円以上ある1人暮らしの方や、夫婦での収入を合わせて359万円以上ある方は自己負担額が1割から2割に増えました。
これまで保険料の支払いは、所得によって6段階に分けられていましたが、改正によりさらに細分化され9段階になりました。
それによって、非課税世帯など段階の一番下にあてはまる低所得者の負担は五割から三割に軽減されました。
また、これに伴い、一番上の段階にあたる所得の高い方たちの負担は、1.5倍から1.7倍に上がりました。
平成27年4月以降に特別養護老人ホームに新しく入所する条件として、要介護3以上であることに限定されました。
しかし、要介護1や2の方でも、特別養護老人ホームでないとならない状況であると判断された場合は、入所が認められます。
要支援1.2の方が利用していた介護予防通所介護や介護予防訪問介護ですが、今後は介護保険が適用されなくなり、市町村を主体とした地域支援事業が介護予防や日常生活の支援を行うことになりました。
そのため、利用者が支払う利用料は各市町村により異なるようになります。
介護保険の自己負担が2割となる「一定以上所得者」の判定基準
○ 介護保険の自己負担が2割となる一定以上所得者については、基本的に第1号被保険者である高齢者本人の合計所得金額(※1)により判定を行い、世帯の中でも基準以上(160万円以上(※2)、年金収入に換算すると280万円以上)の所得を有する方のみ利用者負担を引き上げることとする。
○ しかしながら、・ その方の収入が給与収入、事業収入や不動産収入といった年金収入以外の収入を中心とする場合には、実質的な所得が280万円に満たないケースがあること
・ 夫婦世帯の場合には、配偶者の年金が低く、世帯としての負担能力が低いケースがあることから、以下のように、その世帯の第1号被保険者の年金収入とその他の合計所得金額の合計が単身で280万円、2人以上世帯で346万円(※3)未満の場合は、1割負担に戻すこととする。
出典:厚生労働省(一定以上所得者の負担割合の見直しについて)
いかがでしたか?
介護保険法3年に一度見直しをするというのは、知らない方も多かったでしょう。
見直しをする事によって、有利になる人もいれば、不利になる方達もいらっしゃいます。
皆が不公平感なく介護支援を受けやすくするというのは、なかなか難しい事です。
介護保険の見直しによって、施設での対応も変わりますので、ご自分でもきちんと内容を把握しておき、適応していきたいものですね。
そしてまた、3年後の見直しの際には、どのようにサービスが変わるのか、積極的に理解していく必要がありますね。