世界でも稀にみる超高齢化社会を迎えている日本で今、住み慣れた地域で安心して暮らしていくために地域包括支援センターの役割が期待されています。
今回は、この地域包括支援センターについて掘り下げて解説していきたいと思います。”地域包括支援センターとは一体どんなところなのか””サービスはどこで受けられるのか””今後の課題はどういったところにあるのか”といったところに焦点を当ててご説明していきます。是非参考にしてみてください。
2006年に介護保険制度が改正され、各市区町村に「地域包括支援センター」が設置されるようになりました。
地域包括支援センターとは、高齢者の方達が住み慣れた地域で、安心して自分らしい生活を継続できるように心身の健康維持、生活の安定、保健、福祉、医療の向上と増進のため必要なサポートや、支援を包括的に行う地域の中核機関です。具体的には、ケアプランの作成や、各地域に根付いた包括的な介護事業を行っています。
日常生活や介護のことで、何か不便なことがあれば、まずは地域包括支援センターに問い合わせてみるとよいでしょう。例えば両親の心身機能が低下し、将来への不安を感じるようになった時、相談窓口に行ってみても「ここは担当ではない」と返答されると、どこに相談すれば良いかわからず一人で悩みを抱え込むことになり兼ねません。地域包括支援センターはそんな悩みを溜め込まないように、誰でも安心して相談できる、はじめの一歩となるような機関と言えるでしょう。
地域包括支援センターは、市区町村ごとに、数カ所設置されています。住んでいる地域ごとに対応する支援センターが決まっているので、分からない場合は、各市区町村の窓口に確認してみましょう。
また、地域包括支援センターは地域によって固有の名称をつけていることがあります。なので、地域によっては「あんしん相談センター」、「お年寄りセンター」、「シニアサポートセンター」など様々な呼び名が付けられています。詳細についてはお住まいの市区町村へ確認いただくと良いでしょう。
地域包括支援センターで行っているサービスは、大きく分類すると4つに分けられます。「介護予防ケアマネジメント」「総合相談・介護サポート」「権利擁護」「包括的・継続的ケアマネジメント支援」の4つです。この4つのサービスを軸に、地域に住む高齢者の生活を総合的に支えています。
介護予防ケアマネジメント |
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要介護1、2の判定を受けている高齢者の方や、介護支援が必要となる可能性が高い高齢者の方に、今後の自立した生活の継続や、身体状況の悪化を防ぐことを目的に支援を行います。 その中心となるサービスが「介護予防ケアプランの作成」です。対象の高齢者の方一人ひとりにあった介護予防に取り組むためのプランを作成します。 また、日常生活における課題を顕在化させ、状況を把握し、その課題点を分析します。例えば、日常の歩行や、公共交通機関を使用する際の問題点、改善方法を支援したり、社会参加をするためのコミュニケーション、対人関係の構築の課題などを明確にさせたりします。その上で、今後の介護予防として、「閉じこもり予防」「認知機能低下予防」「うつ予防」「運動器の機能向上」「栄養改善」「口腔機能向上」などの介護予防の提案なども行っています。 また、要介護の高齢者には、さらに手厚い介護を行うために、居宅介護支援事業者の紹介を行っています。 |
総合相談・介護サポート |
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高齢者の方の簡易的な相談や、ご家族の方の悩みなどに対し、幅広く対応を行います。相談内容に合わせて、適切な介護サービスや支援サービスの紹介なども行います。柔軟に、かつ包括的に介護における悩みが解決できるようにサポートを行っています。 |
権利擁護 |
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高齢者虐待の早期発見や、成年後見制度の紹介、消費者被害対応などを行っています。近年では、高齢者を狙った悪質な詐欺や犯罪が増えてきています。また、虐待も大きな問題として取り上げられており、地域包括支援センターによる早期発見や防止が注目されています。 |
包括的・継続的ケアマネジメント支援 |
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高齢者に対し、包括的かつ継続的サービスが提供されるよう、多種多様な社会資源を利用したケアマネジメント体制の構築をサポートしています。 要支援の場合は、地域包括支援センターでケアマネジメントやサービス計画の作成をします。また、要介護の場合は、居宅介護支援事業者の紹介を行います。 |
地域包括支援センターは、各市区町村に最低でも1つは設置されています。利用できるのは、その対象地域に住んでいる65歳以上の高齢者の方、または、その介護支援のための活動に関わっている方です。介護支援の対象となる高齢者の方と、支援を行う身内の方の住んでいる地域が異なる場合は、支援の対象となる高齢者の方が住んでいる自治体の地域包括支援センターを利用します。高齢となった両親や親族の方がいる場合は特に注意が必要です。
また、地域包括支援センターは、自治体によって名称が異なる場合があります。まだ利用したことのない方、これから利用を考えている方は最寄りの地域包括支援センターがどこにあるのかネットなどで調べるところから始めましょう。各センターの問い合わせ先や開設時間等も詳しく記載されているはずです。また、地域包括支援センターの利用は全国どこのサービスでも無料で提供されています。
地域包括支援センターを活用する上で、居宅介護支援事業所とどのような点が異なるのでしょうか。
居宅介護支援事業所も地域包括支援センターも、高齢者の方の相談に乗ったり、悩みを解決するという点では同じです。異なるポイントは、簡単に表すと、
地域包括支援センター |
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→ほぼ全ての高齢者の方の相談を受ける事業所 |
居宅介護支援事業所 |
→要介護の判定を受けている高齢者の方のケアプランを作成する事業所 |
といったかたちで分類できます。地域包括支援センターの特徴は、些細な相談から具体的なケアや介護予防の相談まで受け付けている点です。漠然とした相談でも、日常のちょっとした悩みなどでも対応してもらえる施設のため、どんな方でも気軽に利用することができます。
地域包括支援センターでは、どんな些細な悩み、相談でも快く受け付けています。しかし、相談といっても様々なケースがあります。ここでは、いくつかの具体的な事例を紹介します。
高齢になり、身内が近所に住んでいる市区町村に引っ越しをしたAさんは、周囲に知人がいないため、日中も一人でテレビを見たり、新聞を読んだりする生活を行っていました。引っ越す以前は活発で、友人ともよく出かける日も多かったのですが、近所に住む身内も日中は仕事で留守にしているので、一人で過ごす時間が増えてしまいました。
そんな生活を心配した身内の方が、地域包括支援センターに相談して、近所の老人会の紹介や、介護予防教室の紹介を受け、Aさんに勧めることにしました。Aさんは勧められた通り、地域の方との関わりを持ち始め、親しい友人もできて、以前と同じようによく出かけるようになりました。
数年前からこの地域に住んでいるBさん夫婦の隣人に、80歳を超える高齢者のCさんがいました。
Cさんは独身で、近くに親族や身内の方も暮らしていない様子でした。Cさんは数カ月前までは、よく近所を散歩している姿を見かけており、Bさん夫婦ともご近所付き合いのある方でした。
Bさん夫婦は、最近Cさんをあまり見かけないこと、見かけてもすっかり元気のないことに心配になり、近くの地域包括支援センターに相談しました。
後日、相談員の方がCさんの自宅に訪れ、Cさんの様子を伺い、一度病院に足を運んでもらうかたちになりました。病院に行くと、低栄養や様々な身体機能の低下がみられたそうです。今回は早期発見だったため、大事に至ることなく、数日後には元気に散歩するCさんの姿を見かけて、Bさん夫婦は安心しました。
地域包括支援センターには、主に3職種の専門家である「保健師または実務経験のある看護師」、「社会福祉士」、「主任ケアマネジャー」など、専門知識を持ったスタッフが相談を受け、互いに協力しなら、「チーム」として総合的にサポートしていきます。ちなみに相談料は無料です。
保健師は、介護予防や医療面での相談対応を行っています。また、大きな役割として病院・保健所との連携の構築役を担っています。
主任ケアマネージャーは、介護に関わる業務全般の相談を請け負い、介護の支援をを行います。各地域のケアマネージャーのサポートや、サービス事業者との連携を図っています。
社会福祉士は、全ての相談の窓口としての役割を担っています。総合相談窓口としての利用者対応が主な業務になっています。
保健師または経験のある看護師 | 主任ケアマネージャー | 社会福祉士 | |
介護予防ケアマネジメント | ・健康・医療 ・介護予防 ・地域支援・予防給付 |
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総合相談・介護サポート | ・健康・医療 ・介護予防 |
・介護全般 | ・介護や生活支援 ・消費者被害 |
権利擁護 | ・虐待問題 | ・虐待問題 | ・虐待問題 ・成年後見制度の利用援助 |
包括的・継続的ケアマネジメント支援 | ・保健所 ・病院 ・薬局 |
・ケアマネ支援 ・困難事例 ・多問題家族 ・サービス事業者連携 ・事業者の質の向上 |
・行政 ・専門機関 ・困難事例 ・多問題家族 |
地域包括支援センターができた背景には、日本の少子高齢化社会が世界でも稀にみる早さで進んでいることが挙げられます。2025年には、団塊の世代の全てが後期高齢者の75歳以上になり、介護や医療の充実は必須のものとされています。
こうした状況が想定される中、厚生労働省は、2012年の介護保険法改正の中に、「地域包括ケアシステム」の推進を盛り込みました。この「地域包括ケアシステム」により、高齢者が可能な限り住み慣れた地域で生活を送れるような、地域全体で包括的な介護・医療の支援やサービスを提供できる体制を作ることができます。
地域包括ケアシステムとは、全ての高齢者の方が要介護になっても、継続して住み慣れた地域に暮らし、医療・介護の支援、サービスに加え、「住まい」「生活支援」「介護予防」のサービスを包括的に受けられるシステムです。
地域包括ケアシステムの最大の特徴は、地域・自治体ごとの包括的な支援に特化している点です。地域包括ケアシステムの実現のためには、地域・自治体の力が不可欠となっており、行政、企業、ボランティア等の団体が協力が必要となっています。住み慣れた地域で充実した支援やサポートを行うことは、各地域の介護・医療の事業者、生活支援や介護予防を行う団体が、地域の介護ニーズを確実に把握し、適切なサービスを提供することから生まれます。日本の人口や人口構成は、自治体により大きな偏りがあり、高齢者を取り巻く環境も異なります。そのため、それぞれ地域に適したサービスを行うことが重要視されています。
また、地域包括ケアシステムは、4つの概念(自助・互助・共助・公助)から成り立ちます。自分の健康を自分で維持する自助、地域の住民同士で支え合う互助、足りない部分を介護保険、医療保険で補う共助、生活保護、社会福祉で補う公助の組み合わせが大切です。その4つの概念の中心的な役割を担うことになる施設が、地域包括支援センターです。地域包括ケアシステムには、地域包括支援センターが必要不可欠な存在になっています。
しかしながら、地域包括支援センターにはまだいくつかの課題があるとされています。特にセンター自体の認知度の低さや、非効率な体制に問題があります。担当地域の地域包括支援センターの認知度がまだ低く、自治会の役員を務めているような人の中にも、知っている人と知らない人がいるのが現状です。
認知度が低いと、利用する人がなかなか増えていきません。制度改正に伴い、要介護から要支援と新たに認定されましたが、ケアプランをどこに依頼するべきか分からず、そのまま利用されないケースもあります。
また、地域包括支援センターで働く職員の中には要支援者に対するプラン作りに必死なあまり、「予防プランセンター」化してしまっているとの声もあります。
「要支援」の利用者と、「要介護」の利用者の窓口が二分化し、一本化されていないというのも不便な点とされています。
要介護認定者には、居宅介護支援事業者を紹介するようになっていますが、手続きが煩雑で利用しにくいとの声もあります。
スタッフの人員不足が原因で、ケアプラン作成を一人で行うことになり、他のスタッフに相談する時間が取れないといった問題も生じてきます。こういった人材不足のしわ寄せが来てしまうのも課題とされています。
各自治体によって、地域包括支援センターの位置づけも様々なので、自治体によっては委託会社に業務を丸投げしているところさえあります。
上記のような様々な問題を抱えている地域包括支援センターですが、介護難民が増える2025年までに可能な限り改善を行っていく必要があります。
地域包括ケアシステムにおける医療提供とは、かかりつけの医師がついた在宅医療、在宅療養支援診療所(病院)として、訪問看護と連携した365日、24時間体制の絶え間ない在宅医療のことを指します。
地域包括ケアシステムの医療提供は、医療と介護を一体的なものにしていることがひとつの特徴になります。そのため、医療者がケアカンファレンスへの参加など、介護に対する協力や理解、介護サービスの評価にも積極的に関わっていくことが求められます。
住み慣れた地域で最後を迎えることができない高齢者が、近年増加しています。治る見込みのない癌や、老衰の終末期などをサポートしてくれる受け皿が少ないことが課題です。そのため、医療機関が在宅医療に関わることは、今後ますます重要になってくるでしょう。