日本の少子高齢化はぐんぐん進み、介護の現場を維持していくのに国内だけではどうにもならない状況になっています。そこで注目されている外国人介護士ですが、どういった状況なのでしょうか。
今回は、「外国人介護士」について、介護に携わっている方、介護のお仕事へ転職を考えている方、介護に興味も、みんなで考えませんか。
介護の現場は人手不足です。
耳にタコができるほど言われている人手不足。介護を勉強していない人でも「介護現場は人出不足」というキーワードを聞いたことがあるでしょう。
高齢化が進み介護を必要とする人は増えるのに、若者は減っているのだから当然の結果、仕方ない部分もあるでしょう。でも、現場で働いている立場から言えば、仕方ないではすみません。
100歳以上の高齢者は1990年には3298人だったのに対し、2016年には65692人と20倍近く増加しています。
医療技術の進歩や生活の向上、健康意識の高まりなどが要因ともいわれていますが、20倍とはすごいですね。
そんな中、厚生労働省が介護職員に対して実施したアンケートでも、訪問介護職員の4割超が「従業員が不足している」「大いに不足している」と答えています。
この問題に対し、政府は何とかしなくてはと思い、「日本人がやりたくないなら、外国人に来てもらって介護してもらえばいいじゃないか。」と考えました。
そこで、2008年に政府間で結ぶ経済連携協定(EPA)に基づき、インドネシアと協定を結び、介護をしてくれる人には勉強もさせますよという制度をスタートさせました。
翌2009年にはフィリピンからの受け入れも始め、2014年からはベトナムとも協定を結んだので、現在は3か国の人材を受け入れています。
外国人介護士・看護師は国家試験に合格すると、日本で無期限に仕事ができるということは、ホワイトカラーの「高度人材」、南米諸国など出身の「日系人」らを除けば、日本が初めて外国人に永住の道を開くケースなので、多くの人が立候補すると思っていた政府なのですが、結果から言えば外国人介護士が飛躍的に増加することはありませんでした。
介護は、「対人サービス」なので、コミュニケーションは必須です。その分野を日本語が話すことが出来ない人が行うのは至難であることはわかりますよね。
EPAで来日する外国人介護士たちは、日本で仕事を始めて3年後に国家試験を受験し、一発で合格しなければ帰国しなくてはいけません。現在はある程度の点数を取った受験生に限って翌年の再チャレンジも認められたが、日本語での試験は外国人にとって難関です。
しかし、4級レベルの日本語では高齢者とのコミュニケーションはままならないのも現状です。
日本語がカタコトなのに、さらに介護福祉士試験に合格しなくてはいけないのはとてもハードです。
厚生労働省は国家試験の文章をわかりやすくする、漢字にルビをふる、不合格の場合も滞在を1年延長するなどの配慮をしていますが、なかなか定着していないのが現状です。
介護教育も課題があります。外国人技能実習生の多くは、出稼ぎ目的で来日する人も多く「介護」に対する意識が根付いていない事、母国で「介護サービス」の概念が根付いていなく、そこから意識を高め、技量育成していくことが必要です。
フィリピンなど高齢者を大事にするお国柄ともいわれていますが、大事にするのと「介護サービス」は別物です。
出典:厚生労働省HP
そもそも、EPAって何?という人のためにわかりやすく説明しますね。
経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)
幅広い経済関係の強化を目指して,貿易や投資の自由化・円滑化を進める協定です。日本は当初から,より幅広い分野を含むEPAを推進してきました。近年世界で締結されているFTAの中には,日本のEPA同様,関税撤廃・削減やサービス貿易の自由化にとどまらない,様々な新しい分野を含むものも見受けられます。
FTA:特定の国や地域の間で,物品の関税やサービス貿易の障壁等を削減・撤廃することを目的とする協定
EPA:貿易の自由化に加え,投資,人の移動,知的財産の保護や競争政策におけるルール作り,様々な分野での協力の要素等を含む,幅広い経済関係の強化を目的とする協定
出典:外務省
外務省のいうことはすこし難しく感じますが、簡単に言うと貿易をする為のルールです。
「貿易条約」ですね。
FTAとEPAは貿易の出来るジャンルが違います。
EPAはEconomic Partnership Agreementの頭文字で経済連携協定といいます。
「投資の促進、知的財産や競争政策等の分野での制度の調和」を目的としています。
もっとわかりやすくいうと、2か国でお互いの経済をよくするために関税をなくすから、自由に貿易しましょうということです。
貿易で介護?と結びつかないかもしれませんが、知的財産も含まれるのが特徴なのです。
EPAの中に細かいルールのFTAがあるとイメージしてください。
EPAでは、「投資の促進、知的財産や競争政策等の分野での制度の調和」を持って区的にしています。
具体的には、投資の促進、知的財産や競争政策等の分野での制度の調和に関しての貿易では「関税」をなくしてしまいますよということです。
EPAについてわかっていただけたでしょうか?
少し難しく感じるかもしれないけれど、EPAという制度が出来たから外国人を介護士として、日本で雇うことが出来始めたとだけ覚えておいてください。
こから細かい話になりますが、EPAに基づく外国人介護士の受け入れについて考えてみましょう。そもそも、受け入れは国によって資格基準が違います。
下記の図にありますが、
平成20年から始まったインドネシアは、高等教育機関(3年以上)卒業+インドネシア政府による介護士認定又はインドネシアの看護学校(3年以上)卒業している人が対象です。
平成21年度から始まったフィリピンは、4年制大学卒業していて、フィリピン政府による介護士認定または、フィリピンの看護学校(学士)4年卒業している人が対象となります。
平成26年からのベトナムは3年生又は4年生の看護課程修了者です。
ベトナムのみ、訪日前に日本語研修を1年行い、日本語能力試験N3以上に合格しなくてはいけません。
母国でも資格を持っている人が対象なのがわかりますね。
これだけの基準をクリアしているなら、一見するとすぐに戦力として活躍してもらえそうにも思えるのですが…。
経済連携協定に基づく受入れの枠組
候補者の受入れは、看護・介護分野の労働力不足への対応ではなく、二国間の経済活動の連携の強化 の観点から、経済連携協定(EPA)に基づき、公的な枠組で特例的に行うものである。
出典:厚生労働省
母国で介護や看護の勉強をしていて、資格も持っています。
日本語の勉強は、税金で受けることができます。
それだけ聞くと、即戦力として十分見込めそうではあるのですが、介護は対人サービスですので、日本語での会話の能力はもちろんのこと、読み書きの能力が問われる書類の作成関連業務も多くあり、日本語のハードルはとても高いものになっています。
また、日本語で介護福祉士試験に合格しなくてはならないというが、一番のハードルです。
日本人でも難しい国家試験を、日本語を学びたての外国人が1年で合格しなければならないのですから、その難易度の高さは推して知るべし…ですね。
介護現場に実習生を入れることは、ついに政府が介護の人手不足を認め、外国人に頼ることを意味していると言われてきましたが、そもそもなぜ外国人なのでしょう。
それを知るには、EPAが成立した当時の政治情勢についても少し知る必要があります。
2006年、小泉首相の時代です。交渉中だったEPAを有利に運ぶため、フィリピンからの要求に応じて受け入れを決めたのが始まりです。
日本は産業廃棄物をフィリピンへ持ち出したかった。一方のフィリピン側は、日本への出稼ぎ手段の確保という思惑がありました。
そこでEPAで、フィリピンから日本への出稼ぎでは「介護士としてなら受け入れますよ」と始まったのです。
ですので、元々は日本主導で「介護現場の人出不足を解消しよう!」と息巻いて始まったわけではないのです。
むしろ、永住権を与えてしまうことで外国人が大量に流入してしまうのも困るとする意見もありました。
そこで、厚生労働省は、「介護士は4年、看護師は3年以内」に国家試験に合格しなければ強制的に帰国させるというルールを決めました。外国人にとっては日本語での国家試験は難関です。そのこともあり、希望する人の人数はあまり伸びず、これまでEPAを希望した人は8年間で、2800人ほど。来日しているのは希望の7割で、2000人弱ですね。
当初の予定では2年間で2000人を目標としていたことを考えると、制度自体、あまり活用されていないとも言えそうです。
そして、外国人介護士が浸透していないもうひとつの理由が、採用を躊躇する施設が多い事です。
介護士らの受け入れには、就労前の日本語研修や斡旋手数料などで1人につき約60万円の費用が必要になります。就労を始めれば、日本語に不安があっても日本人と同等に給料を支払う必要があります。しかも、国家試験に落ちれば短期間で帰国してしまいますし、合格しても母国より賃金の高い日本で就業することを選ばず、多少賃金が安くても母国に戻り、もともと持っている資格や日本で新たに身につけた「日本語」という武器を使って活躍している人も多いのが現状です。
経済連携協定に基づく受入れに係る国家試験合格者・合格率の推移
出典:厚生労働省
そして、実際の介護福祉士国家試験の合格率の推移を見てみると、年々高まってきており、直近の平成27年度ではインドネシアは58.5%、フィリピンは43.0%です。
日本人を含める全体の合格率は57.9%ですから、インドネシアの合格率の高さは目を見張るものがありますね。逆にフィリピンではまだまだ低い合格率ですが、受験者数はインドネシアと同じくらいを推移していますから、今後よくなっていくといいですね。
人出不足といいながら、「潜在的介護士」を現場に戻すことはせずに、安易に外国人労働力を頼りにした。ともいわれているこの制度ですが、このままでいいのか、政府も2016年には外国人介護人材受入れの在り方に関する検討会などを何度も開き、検討しています。
平成28年11月18日、外国人介護士関連2法案が可決され、今後1年以内に施行されることになりました。
改正入管法により、介護福祉士の資格を有する外国人を対象として、「在留資格:介護」を設け、介護または介護に関する指導を行う業務に従事することが可能となりました。
留学ビザで入国し、介護福祉士養成校に2年以上在籍、介護福祉士資格を取得することで現場に配属されることになります。
EPA介護福祉士が国家資格取得後永続的な滞在が認められるのに対して、「在留資格:介護」の場合は最長で5年(更新が可能)という制限に加え、留学のための費用本人負担が大きいなどの課題はありますが、門戸の広さはEPAを遥かに超えていまので今後外国人介護人が増えていくかもしれません。(「在留資格:介護」を活用できる国に制限はなく、どの国の人であってもこの制度を活用することができます)
その時に、コミュニケーションの問題をどうするのか、どのようにサービス向上をしていくのか、議論を呼びそうですね。
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