介護現場では、女性介護者がセクハラを受ける事が大きな問題の一つとして挙げられます。
しかも言葉によるセクハラだけでなく、実際に触られたり、見せられるなど、嫌な思いをして傷つく介護職員もいます。
セクハラを理由に、辞めていく女性社員もいるくらい被害は深刻です。
このような問題を改善していくためには、事業者側の環境整備が必須です。
今回は、介護のセクハラに関してお話していきます。
実際にセクハラを受けた方の例や、対策についてもご紹介していきます。
これからますます増えていくことになる介護、その介護に関わる重要な問題をぜひ、最後まで読んでみてください。
ここ数年、若い女性のホームヘルパーや介護士の中で、要介護者からセクハラを受けて悩む人達が増加しています。
中には、
「多少のセクハラに耐えられないようなら、はなから介護職になんて就くんじゃない!」
などと開き直る介護事業所のトップさえまでいるようです。しかし、セクハラの問題は極めて重要です。
ところで、被害にあった女性介護職員達には、いくつかの共通点があります。
それは、
セクハラは、要介護者たちのつらい心情の表れだから、多少の事は我慢しなければ・・・
自分に隙があって、こちらにも非があったのかもしれない・・・
などと、要介護者をかばい、自分に問題があるのではと考えたり、このくらいなら我慢できるかも、と自己解決しようとして周囲に相談しないという事です。
また、介護業界全体でも、「セクハラなどを受けて悩んでいる職員を、しっかりと保護していこう!」というスタンスが、明確にとられていないところも多く、被害にあった従業員に対して、何の対応や予防もしてないという事も挙げられます。
性的な嫌がらせを受けても誰も守ってくれないというのは、良い職場環境とは、とても言えません。
一方、味をしめた要介護者達は、どんどんエスカレートしていく可能性もあります。
加害者が要介護で、身体的弱者であろうとなかろうと、
「他人から身体を触られる」「性器を見せられる、押し付けてくる」などの被害は、された側の心的ダメージは大きく、後々もトラウマとなって引きずるケースもあり、決して軽々しく済ませてよいものではないのです。
暴言、暴力、セクハラ 介護労働者「辞めたい」続出
介護労働安定センターが2006年9―10月に行った介護労働実態調査でも、介護サービス利用者のモラル低下が浮き彫りになっている。それによると、過去1年間の仕事の中でセクハラ・暴力などの経験があると答えた介護労働者は、45・8%にも上った。「利用者、家族の誤解、無理解」の20.1%をトップに、「暴言」16.1%、「誹謗・中傷」11.5%、「セクハラ」7.3%、「暴力」6.5%などと続く。
出典:J CASTニュース
内円は、セクハラ・暴力にあったことのある方の割合を、外円はセクハラ・暴力にあったことのある方の内訳を示しています。セクハラ・暴力の経験がある、という回答が45%にも上り、過半数近くの割合で被害にあっていることがわかります。
また、セクハラや暴力を経験した方のその後の状況は下記の通り、未解決のままという方もまた4割をも占めている結果です。
(参考:公益財団法人 介護労働安定センター 介護労働実態調査結果について)
勇気をもって報告しても、未解決のまま進展がみられないケースも多く、介護現場での暴力・セクハラについては、早急に対処する必要があることは明白でしょう。
以下、セクハラの被害にあった介護職員の具体的な事例をご紹介します。
賃貸住宅で、栄養指導するために部屋を訪れた20代半ばの管理栄養士が、右半身麻痺のある要介護3の男性(60代後半)と会話している最中に、「トイレに行きたい。手を貸してくれ」と言われ、パジャマのズボンを下ろすよう求められた。
「パンツも」と言われ仕方なく下ろした途端、頭を押さえつけられ、顔に性器を押し付けられた。
女性職員は悲鳴を上げて廊下に飛び出し、近くにいた男性ヘルパーに泣きながら助けを求めました。
【顛末】
この事態について報告を受け、事実確認に行くと、
「意識が朦朧としていて覚えていない。もし本当にそんなことがあったのなら申し訳ない。本人に直接謝りたい」
との申入れがあったが、念のため、その女性職員には、二度と対応させませんでした。
またそれ以降、その利用者には男性に担当させるよう対応しました。
医療法人が運営する賃貸住宅の一室で、訪問介護に出向いた30代のホームヘルパーが、脳梗塞の後遺症で療養中の男性(70代)からセクハラを受けました。
布団から腕を伸ばし「上体を起こしたいから手を貸して」と言われ、手を握って引っ張ろうとしたところ、逆に強い力で引き寄せられ、要介護者の体の上に抱き抱えられた。そのまま抱きしめられ、下半身を撫で回されたり、頬や耳やうなじにキスされたりしました。
突き放そうとしたものの、相手の力は意外に強く、足も絡められて身動きが取れなくなってしまいました。
セクハラを受けた時間は、30秒程度。
大声で、
「何するんですか。いいがげんにしてください!」
とにらんだらようやく辞めてくれましたが、要介護の方は笑いながら、
「冗談冗談」
と言い、いやらしい目つきで見られました。
【顛末】
事業者側は報告を受け、早速家族に連絡をし、次回もまた同様の事が起きた場合には、退去頂くよう通達した。
その他にも、、、
などのセクハラ行為が挙げられます。
特に自分の性器を見せつけてくる利用者は、トイレで介護をしている時が圧倒的に多いです。
このようなシチュエーションでは、男性を担当にさせるなど、事業者側の配慮が必要です。
本人は軽い冗談のつもりでも、介護職員が不快に感じたなら、それはセクハラになります。
「私は訪問介護員をしている者です。私の勤めている事業所は、私と同僚以外は全員50代以上のスタッフで成り立っています。ある日、同僚(20代・女性)が身体介護で男性利用者(70代、以前からセクハラ発言や問題行動がある)宅へ訪問した際、オムツ交換中、利用者が「ここを触るとどうなるかな~」と言いながら、股間を触ってきたそうです。同僚は怒り、その事を事業所の所長へ報告しました。
※その後、所長が利用者宅を訪問し話し合うと、利用者から「俺も悪かった…」と言われたそうです。
その報告を受け、全体共有するために、他のスタッフにも、この事態を報告したのですが、
と主張するスタッフも2名ほどいました。
聞いているこちらがショックで悲しくなってしまいました。同僚は以前からその利用者にセクハラ発言をされても、聞き流したり毅然とした態度をとっていたそうで、利用者の「俺も悪かった」という言葉や他のスタッフの発言に激怒し、以前から今の仕事辞めたいと言っていました。今回の事件で、ますますその気持ちも強まったそうです。確かにベテランスタッフから見れば、セクハラ程度で甘えた事は言うなと思われるかもしれませんが、今回の件は、程度を越しており、許せる範囲ではないと思います。」
(参考:けあとも)
身体に麻痺のある男性をベッドから起こそうとした時、男性がヘルパーの胸を触った。ヘルパーが怒ると、男性は「怒られると興奮する」と言い、さらに「ズボンをおろしてくれ」と発言した。女性職員は、「頭が真っ白になってしまって対応ができなかった」と話す。この男性の記録を調べてみると、過去にもセクハラを繰り返していた事が記載されていた。女性職員は、男性に抗議し、男性ヘルパーに交代しようとしたが、聞き入れられなかった。仕方なく、横浜市福祉サービス協会総合労働組合に相談し、チーフヘルパーにアンケートを行ってもらった。その結果、多くの女性が「セクハラを受けた経験がある」と答え、中には「訪問すると全裸でいたり、アダルトビデオを流して反応を見たりする」、「利用者ではない家族が、2階にヘルパーを呼び出して抱きついてきた」などの、悪質なケースもある事が判明しました。
(参考:たけはな介護・福祉相談支援室)
介護現場でセクハラ被害にあってしまったら、どのような対処が求められるのでしょうか?
以下、ご参考にしてみてください。
同僚に相談する
事業所にきちんと報告を上げるべきことですが、言い出せない、いいにくいという場合、同僚に相談し、担当を替えてもらうなど、同じことが繰り返されないよう対策を打つという手もあります。日ごろから、同僚とはなんでも相談し、同僚を通して、事業所に話してもらうという方法もあります。
事業所に相談する
相談しにくいと事案だとは思いますが、報告を上げないことには対策も打てません。同じような被害が繰り返されないようきちんと事業所に一報をあげましょう。
利用者の家族にきっちり事実を説明する
事業所に相談し、どのような対応をするかが決まってから、必要であればご家族の方へも事実をご報告すべきでしょう。
利用者の心身の状況にもよりますので、伝え方には十分配慮する必要があります。
しかし、セクハラ行為がエスカレートする前にしっかりと手を打ちたいものです。
今後の介護サービス利用にも関わることなので、ご家族と寄り添った形で対策できれば理想的ですね。
男性介護士のみに対応してもらう
事業所への相談を経て、セクハラ行為をする利用者へのに措置として、このような結論に至るケースは多いようです。
都道府県労働局雇用均等室に相談する
思い切って会社に相談しても、対策を取ってもらえず、解決できない場合には、相談無料の都道府県労働雇用均等室に相談しましょう。介護の仕事を明るいものにするためにも一人で抱え込まないことが重要です。
HPに全国の連絡先が載っていますので、お近くの都道府県労働雇用均等室を調べて電話をしてみましょう。
利用者の方には、わざとセクハラする方達もいますが、本人には全く悪気はなく、無意識にそう感じさせてしまっているケースもあります。特に認知症などにより、脳に障害を負った方は、それ以前は理性的だったのに、羞恥心がなくなり、人前で衣服を脱いだり、卑猥な言動や注文をしてくる事もあります。また、本当に誤ってヘルパーさんを自分の配偶者と取り違え、抱き付く事もあります。
介護現場で、利用者さんからのセクハラ行動には、以下の理由が考えられるので、ご参考にしてみてください。
卑猥な言動に、セクハラされたと傷つく方もいらっしゃるでしょうが、このように、悪気のないケースも多々あることも、頭の片隅において置いてください。
悪意あるセクハラなのかどうか、きちんと見極めるようにし、ケースによっては寛容に対応する必要があります。
こういった悪意のないセクハラ行動は、脳の病気やコミュニケーションのつもりで行っている事も多く、自覚できないご本人こそ、とても気の毒です。
また、身体が麻痺しているなど不自由なために触れてしまったり当ってしまうという場合は、介護者自身も悩み、苦しんでいることと思いますので、寛大な心で接し、周りの方がカバーしてあげるしかないのです。
セクハラは、本人は軽い気持ちでも、深く相手の心を傷つけてしまう暴力に値します。
訪問介護などでは、現場は一対一になるため、密室だからこそこのような事が起きやすいとも言えるでしょう。
ただ、実際にセクハラの事実があっても、表面化しにくいというのは問題です。
誰にも相談できず、自分が我慢するしかないと、優秀な人材が辞めていってしまうのは、介護事業所にとっても、大きな損失になります。
国が進める地域包括ケアシステムでは、施設から在宅への介護のシフトを進めています。それに伴い、訪問介護の比重も増すことが予想されますので、より一層のセクハラ被害対策が早急に必要になるでしょう。