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家庭内・介護施設における“高齢者虐待”はなぜ起こるのか?原因と対策についてご紹介

日本はいま加速する高齢化社会の中で様々な問題が浮き彫りとなっていますが、とりわけ家庭や介護施設における“高齢者虐待”の問題が深刻になってきています。どちらの場所も第三者の目が入りにくく、虐待の発見が遅くなってしまうことがより一層問題の深刻化を招く要因となっています。そこで今回は、そもそも”なぜ高齢者虐待が起きてしまうのか”に迫り、高齢者虐待について理解を深めていきたいと思います。

高齢者虐待の問題

まず高齢者虐待とは、家庭内または介護施設内で起きる高齢者に対する虐待のことです。社会が少子化とともに高齢化が進み、介護を必要とする高齢者が増えてきたことに比例して、高齢者への虐待も増えてきています。2006年には「高齢者虐待防止法※」という、高齢者への虐待の防止・高齢者の養護者に対する支援などに関する法律が施行されるほどに危機感が増しています。

高齢者虐待防止法
正式名称は「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」。2006年4月1日施行され、国と地方公共団体、国民の責務、被虐待高齢者の保護措置、養護者への相談・指導・助言などの支援措置を定め、施策の促進と権利擁護を目的としています。対象となる「高齢者」とは65歳以上(介護を要しない者も含む)で、「養護者」とは家族など高齢者を現に養護する者のことを指します。
(出典:コトバンク)

そもそも“虐待”は閉鎖された家庭内の夫婦間や親子間で起きてしまうことが多いのですが、虐待する方もされる方もその事実を隠したがるため、発見することが困難な状況になっています。さらに高齢者虐待の場合、認知症などの病が進行してしまっていることがあり、虐待されていても認識できていなかったり、そのこと自体を忘れてしまい、周りに助けを訴えることができないという現象も起きています。
高齢者虐待の実態としては下表の虐待件数が物語るように、減少することなく増加し続けています。

<高齢者虐待件数表>

  養介護施設従事者等(※1)によるもの 養護者(※2)によるもの
虐待判断件数 相談・通報件数 虐待判断件数 相談・通報件数
2017年度 510件 1,898件 1万7,078件 3万0,040件
2016年度 452件 1,723件 1万6,384件 2万7,940件
増減数
(増減率)
58件
(12.8%)
75件
(10.2%)
694件
(4.2%)
2,100件
(7.5%)

高齢者虐待の5つの分類と具体例

高齢者虐待は、目に見えた身体的な虐待ばかりではありません。ひとつ虐待といっても種類があり、下記のような厚生労働省が5つの分類をしています。

①身体的虐待

介護されている高齢者に対して、殴る蹴るなどの身体に傷やアザ・痛みを与える暴力行為、本人の意に反し手足を縛り拘束し外部との接触を意図的・継続的に遮断する行為を身体的虐待といいます。

身体的虐待の具体例
・高齢者に平手打ちや殴る、蹴る、火傷などの暴行
・高齢者本人が嫌がっている状態で意図的に、車椅子に縛り付けたり薬を過剰に服用させたりなど身体拘束・抑制する行為
・認知症を患ってしまった高齢者に対して、徘徊を防止しようとベッドに拘束してしまう

②介護放棄・放任(ネグレクト)

必要な介護の拒否、食事や排せつ、お風呂の世話をしない、必要な医療や病気の放置・放任し、活環境や身体・精神的状態を悪化させること。これは介護者が意図的であるか結果的であるかを問わず虐待にあたります。

介護放棄・放任(ネグレクト)の具体例
・高齢者のおねしょが酷いからと水分を摂らせない生活をさせ、ひどい脱水症状や栄養失調に陥ってしまう
・入浴や排泄の世話をせず、不衛生で劣悪な環境で生活させる
・治療や介護に必要なサービス、器具を利用せずに身体機能の低下を招く
・食事は一日一度で、コンビニ弁当を買い与えるだけという生活

③心理的虐待

言葉による暴力、脅迫、侮辱、どう喝や威圧的な態度、無視、嫌がらせ等によって精神的苦痛を与え、高齢者の意欲や自立心を低下させる行為です。

心理的虐待の具体例
・思うように身体が動かせない高齢者に対してイライラして、日頃から怒鳴り声を挙げてしまい、高齢者が自信を無くし、引きこもりがちになってしまう。
・高齢者の尊厳を傷つける誹謗中傷し、嘲笑する
・認知症を患ってしまった高齢者が、同じことを繰り返し話したりすることに対して無視をすること
・ケアマネジャーが薦めた介護サービスを利用せずに、寝たきりに近い状態まで悪化

④性的虐待

本人間での合意もなく性的な暴行、わいせつな行為などの強要や性的羞恥心を喚起する行為、性的嫌がらせなどが性的虐待にあたります。

性的虐待の具体例
・キスや性器への接触、セックスの強要
・排泄の失敗に対して罰として、中には無意味に下半身や身体を裸にしたまま放置する
・高齢者本人の目の前または聞こえるように、近所の人などに「うちのおばあちゃん、おねしょがひどくて」と話し、精神的苦痛を与えること

⑤経済的虐待

高齢者本人の合がないまま財産や金銭を取りあげ使い込み、本人の希望する金銭の使用を理由なく制限したり、使わせないといった行為が経済的虐待です。

経済的虐待の具体例
・年金や預貯金、カード等を取り上げ着服、窃盗する
・高齢者の通帳から勝手にお金を引き出し、毎日パチンコに通う
・高齢者所有の自宅など不動産や有価証券を無断で売却する
・日常生活に必要な金銭を高齢者に渡さない、使わせない

これら5つの種類の高齢者虐待に加えて、最近では「セルフネグレクト」という「高齢者自身が自分の身体の健康状態に関心を示さず、実際には要介護状態にも関わらず放置している状態」の高齢者も増えてきています。また、この他にも分類できないような細かい虐待も多く存在します。これらの虐待に関して一環して言えることとしては、あまり虐待だという意識が薄い「毎日の暴言」や「高齢者の意志に反して財産を勝手に使い込む」などの小さな事でも“人間としての尊厳を傷つけること”が深刻な虐待へと悪化させてしまうことに繋がります。

家庭内での養護者(家族・親族など)による高齢者虐待の現状

このグラフからも分かるとおり、在宅での高齢者虐待は17,078件にも上ります。相談・通報による虐待の疑惑も含めれば、この件数以上に高齢者の虐待が蔓延している実情です。さらに10%ほどは、高齢者の命に危険がある状態ともいわれています。
また、この家族や親族から受けている虐待の種類としては下図の通りです。

このように最も多い虐待としては身体的虐待です。次いで心理的虐待、そして親族だからこそ金銭面を握れるため経済的虐待が続いています。さらにこの中でも認知症を患っている高齢者が虐待を受けている割合として、厚生労働省の平成28年度「老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業)報告書」によると、認知症を患っている高齢者は78.6%も占めています。

家庭内での養護者(家族・親族など)による高齢者虐待が起こる理由

家族や親族からの虐待は、多くは介護ストレスから虐待へと繋がってしまっています。さらに家の中というプライベート空間から“虐待している”意識がないことも助長してしまう要因です。厚生労働省「平成27年度 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果」より、家庭内での虐待が起きる理由としてのトップは全体の25%も占める「虐待者の介護疲れ・介護ストレス」です。次いで、「虐待者の障害・疾病」「被虐待者の認知症の症状」となっています。
さらに経済面の負担から精神的に追い詰められてしまい虐待をしてしまう方もいらっしゃいます。有料老人ホームや特別養護老人ホームへの入居に費用もかかり、さらに待機者も多くすぐに入居ができない現状です。そんな不安定な状態での介護は、介護者の精神に負荷がかかり、「介護うつ」に陥る人も少なくありません。とくに排せつ介助や入浴介助、食事介助が介護で苦労(内閣府「世論調査 介護ロボットに関する特別世論調査の概要」より)しているとされ、このような苦労を介護には終わりもなく介護者一人で背負い込み、誰かに相談する機会も失われて最悪事態となる虐待さらには死亡させてしまうことになるのです。
また、家庭内での高齢者虐待において虐待をしている人の続柄か下図のグラフをご覧ください。

この調査結果から息子や夫など“男性介護者”からの虐待が多くなっています。
起因としては未婚の男女が増えて実家で暮らすうちに親の介護が必要となったり、核家族化で子ども達が家を出て夫婦二人になり夫か妻の介護するケースが多く男性介護者が増加したことも考えられます。そして男性介護者は今まで社会にでて仕事をしていたため、介護をしなければならない状況になった際に“慣れない家事”や思い通りに事が進まず上手く自分の時間も作れないことへの“ストレス”で虐待に繋がってしまうのではないかという見方があります。また、子どもを育ててきた経験や人の世話をする際の包容力・母性といった資質は女性の方が特化している傾向にあることもこの男性介護者が虐待をしてしまうことに繋がっている可能性があります。いずれにしても、男性介護者への支援策の必要性を感じます。

介護施設内での介護職員による高齢者虐待の現状

続いて、介護施設による介護士からの高齢者虐待も起きています。

上図から身体的虐待が群を抜いて起きていることが分かります。原因としては2点考えられます。
まず介護職員の人手不足による“職場環境”の悪化です。これにより介護職員一人ひとりの業務負担がかかり、閉鎖的な空間での施設内ではストレスと捌け口として高齢者に対して虐待をしているとされています。もちろんほとんどの介護職員は「お年寄りの役に立ちたい」と誠実な思いで業務に勤しんでいます。しかし、想像を超えるほどの激務や人間関係の悪化、慢性的な疲労から“正常な判断”がつきにくくなってしまい、自分よりも弱い立場の高齢者へと不満をぶつけやすくなってしまうのです。さらに本来なら、一度だけ虐待行為に近いことを行ってしまったら、すぐに我に返ることができるはずですが、休むこともままならない環境で精神的不調が重なってしまうと、振り返ることすら出来ずにどんどんエスカレートしてしまうのです。
介護施設で虐待が起きてしまう原因の2つ目として、介護職員の教育不足です。人手不足にも通ずることですが、先輩や上司である介護職員も忙しく、介護の仕事が未経験の介護職員に対しても、介護スキルや効率的な介護の仕方、マニュアルもまともに指導できていない現状もあります。介護に不慣れな職員そのまま、慣れない仕事にストレスを抱えてしまい“虐待”だと自覚もせずに心理的虐待を行っているケースがみられます。
くわえて介護職員が担当している高齢者の中で認知症を患っている割合は、厚生労働省の平成28年度「老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業)報告書」によると、認知症を患っている高齢者は84.17%も占めています。認知症高齢者への虐待は、適切なサポート体制が整っていないという社会的要因も考えられます。

行政による高齢者虐待への防止策

また、介護施設には地域との積極的な交流や地域支援事業の介護相談員派遣事業を積極的に利用することでの「外部に開かれた施設」を目指すために見直しがされています。一方、施設長レベルの職員に対して虐待に関する研修や教育、法制度・介護技術・認知症への理解促進、介護職員のストレス対策、虐待事案への速やかな報告体制の整備なども推進しています。
家庭内向けとしては、「介護相談窓口の設置」を軸に高齢者の虐待防止や通報窓口の周知徹底が強化しています。さらに近年では各自治体や地域のボランティア団体などが主催の「介護者の集い」や「認知症カフェ」など相談ができる場所が増えつつあり、介護うつの予防としても役割を担っています。
高齢者虐待の怖さは、繰り返されるうちに日常化してしまい、自分達の中で正当化してしまうことです。くわえて虐待の内容がより酷いものになってしまう恐れもあります。したがって、虐待はなによりも速やかに初期段階のうちに対処する必要があるのです。

まとめ
決して減速することがない高齢化の中で、命に関わる虐待には早急な対策が必要なのは明白です。中には、虐待と判断しにくいケースも考えられますが「自分は大丈夫」「うちの施設に虐待はない」と高を括らずに、きちんとした法律や制度をしっかり理解して、常に虐待に注意して介護を行うこと、一人で介護の負担を抱え込まず、周りの人に相談をして、介護ストレスを上手に解消しましょう。
介護士の方や介護士を目指している方は、介護のプロとして「どういったことが虐待につながるのか」「利用者である高齢者の方が安心して過ごせる環境を整えられているか」について学ぶことも重要です。