「介護予防」という言葉はご存知でしょうか。介護予防とは、2005年の介護保険法改正に伴い、新たに創設されたサービスとなります。幅広い高齢者の方々が受けることが可能となり、要介護になることを出来る限り遅らせることを目的としています。近年、制度が変わったり、各自治体によってサービスの質の向上が図られています。
今回の記事では、そんな「介護予防」について詳しく解説していきます。
それでは、「介護予防」とは一体どのようなものなのでしょうか。まずは「介護予防」の理念について学んでいきましょう。
介護予防の理念 |
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・介護予防は、高齢者が要介護状態等となることの予防又は要介護状態等の軽減若しくは悪化の防止を目的として行うものである。 ・生活機能の低下した高齢者に対しては、リハビリテーションの理念を踏まえて、「心身機能」「活動」「参加」のそれぞれの要素にバランスよく働きかけることが重要であり、単に高齢者の運動機能や栄養状態といった心身機能の改善だけを目指すものではなく、日常生活の活動を高め、家庭や社会への参加を促し、それによって一人ひとりの生きがいや自己実現のための取組を支援して、QOLの向上を目指すものである。 ※引用:厚生労働省「これからの介護予防」より |
上記のように、「介護予防」とは、個々の高齢者が必要とする生活支援サービスに応えつつ、高齢者の方々に地域の中で新たな社会的役割を担っていただくことで、生きがいを持って健康的な生活を送ることを目的としたものなのです。
「介護予防」は、一次予防・二次予防・三次予防といったように、3つの段階に分けて考えることができます。まずは以下の表をご参照ください。
一次予防 | 二次予防 | 三次予防 | |
介護予防 | 活動的な状態 | 虚弱な状態 | 要介護状態 |
要介護状態になることの予防 | 生活機能低下の早期発見・早期対応 | 要介護状態の改善、重症化の予防 |
(参考:図表1-1 生活習慣病予防及び介護予防の「予防」の段階 厚生労働省)
一次予防 |
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主に健康な高齢者を対象にしています。健康に活動できる現状の生活を維持、またはさらに向上させ、社会に対して積極的な活動を促していく状態です。 |
二次予防 |
要支援または要介護になるリスクが高い高齢者を対象にしています。これらの高齢者を早期に発見することで、少しでも早く対応し、できるだけ支援や介護状態になるのを防ぎ、もしくは遅らせることを目的にしています。 |
三次予防 |
すでに要支援・要介護の高齢者を対象に、さらなる重度化を予防したり、支援や介護のレベルを改善することを目的に支援することです。 |
また、介護予防事業を円滑に行っていくためにも、具体的に以下のような取り組みがなされています。
以下の表もご参照ください。
高齢化が加速する日本では、介護予防が特に必要とされ、大きな注目を集めています。要支援・要介護になる可能性の高い高齢者を対象に、介護が必要にならないよう、国や地域を挙げてできうる限り支援していくことが求められております。そのためにも、先述したような一次予防から三次予防までを切れ目なく展開することが重要です。
介護予防の予防給付については、要支援1、2の認定を受けた人を対象に、状態改善と深刻化防止を目的に介護予防サービスが提供されます。
介護予防サービスは主に以下の3つに分類されます。
1.介護予防サービス |
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住み慣れた地域で高齢者の方が自立して継続的な生活を送れるような支援を目的としたサービスです。自立した生活を送ることが目的としているため、在宅での支援が主となります。 |
2.地域密着型介護予防サービス |
介護予防サービスと同じく、自立した生活を継続して送ることを目的とした支援を行っています。介護予防サービスと異なる点として、市区町村ごとにサービスの内容や、種類が分かれていることが挙げられます。また、このサービスを利用できる方は、その市区町村に住んでいる方のみとなっています。 |
3.地域支援型予防サービス |
各市区町村にて、要介護の認定がされていない方、また、要支援認定1、要支援認定2に当てはまる方を対象とした予防サービスです。健康な高齢者を対象としており、介護度の増加を予防することが目的となっています。 |
また、平成24年度の介護報酬改定により、運動器機向上サービス、口腔機能向上サービス、栄養改善サービスのうち、2種類もしくは3種類組み合わせて実施した場合の評価として「選択的サービス複数実施加算」が新設され、高齢者が地域で生き生きと自立した生活ができるよう、総合的な支援が求められています。
地域支援事業における介護予防事業・介護予防・日常生活支援総合事業についても、日常生活の活発化に関与する通所型介護予防事業や、通所系サービスなどのプログラムを実施する事によって生活機能向上を目指します。これに対し、訪問型の介護予防事業や訪問系サービスは、通所型ビジネスやサービスの利用が難しい時に、訪問型によって生活機能改善を図ります。介護予防事業と予防給付における介護予防サービスの目的は、いずれにせよ生活機能向上を図るために役立つものとなっているのです。
2015年の介護保険法の改正とともに、一部制度変更が行われ、高齢者が要介護状態にならないよう、総合的な支援を目的とする、「介護予防・日常生活支援総合事業」が創設されています。これまで行われていた介護予防事業と大きく異なる点は、要介護申請をしていなくても、介護予防サービスを利用できることです。また、総合事業としては、要支援者に加え、65歳以上のすべての方が利用できるように変更されています。詳細は、下記の表をご参照下さい。
※引用:厚生労働省「介護予防・日常生活支援総合事業ガイドライン(概要)」より
介護予防とは、ただ高齢者の運動機能や栄養面を改善していく事が目的だと思われやすいですが、それだけではありません。むしろ、将来の心身機能改善や環境調整などを通し、高齢者一人ひとりの生活機能や社会参加向上をもたらすためのサービスです。これによって一人ひとりの生きがいや自己実現のための取り組みをサポートしていき、生活のクオリティを改善させることを目的としています。
それぞれの高齢者が快適に生活する事ができ、生活の質が上がれば、国民の健康寿命をさらに延ばす事ができます。国民の真の喜びを創造していく事が大切なのです。
また、運動機能向上などのサービスは、あくまで目標達成の手段です。また、これが自己目的化であってはいけません。
そこで、介護予防におけるケアマネジメントの役割が重要視されています。介護予防ケアマネジメントでは、利用者の生活機能向上に対する意欲を促進し、サービス利用後の生活をわかりやすくイメージしてもらう事が重要です。いつまでに、どのような生活機能ができのかという本人の目標が第一であり、これに到達するための手段として、それぞれのサービス要素が選択されます。
その一方で、介護予防の対象となる高齢者は、すでに心身機能や生活機能が低下しているケースも多く、自分の機能が改善するはずはないと諦めてしまったり、鬱状態によってモチベーションが低下している人もいます。
このような高齢者に対し、どのように働きかけていくかが今後の問題とされています。介護予防の対象者であっても、意欲が損なわれていれば思うような予防活動はできません。
介護予防事業の課題 |
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・介護予防につながる活動に取り組む人の増加地域で介護予防(健康の維持・増進)につながる活動の場や機会(居場所や出番)を増やし、身近なところでおのずと介護予防が図られるしくみをつくる必要がある。 ・市町村他部門や民間企業、NPO等を巻き込んだ介護予防の環境整備地域ではさまざまな事業や活動が行われているが、それぞれが独自に展開されており、地域資源として有機的に機能していない。必要な人に情報が行き届き、つながるしくみをつくる必要がある。 ・ニーズに合った総合的な支援の実施(適切なケアマネジメントに基づく支援の実施)参加者数が伸び悩んでいる自治体が多い現状は変わらず、課題となっている。 ※引用:厚生労働省「これからの介護予防~地域づくりによる介護予防の推進~」より |
介護予防サービスとは、これまで説明してきましたように、住み慣れた地域で、高齢者の方が自立した生活ができるための支援を目的としたサービスです。あくまで利用者に対する自立支援を目時としているため、在宅での支援がメインのサービスとなっています。
【対象者】 |
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要支援認定が1から2の高齢者が対象になります。 |
【サービスの流れ・利用方法】 |
地域包括支援事業所等に紹介されたケアマネージャーと相談し、ケアプランを作成します。そのケアプランに沿ったケアを実施していきます。 |
主な介護予防サービスは、以下の3種類となっております。それぞれの内容の違いについて把握しておきましょう。
◆介護予防訪問介護 |
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サービス利用者の自宅にヘルパーが訪問し、支援を行うサービスです。自宅での支援になるため、基本的には利用者が自立した生活を送ることが目的になっています。行うサービスの内容は、食事介助から洗濯、調理等まで多岐に渡ります。利用者のケアプランに沿った内容の支援を行っています。 |
◆介護予防通所介護 |
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訪問介護とは異なり、利用者がデイサービス等に通い、生活の支援を受けるサービスです。自宅での支援との違いは、主に食事介助や入浴介助等を行うケースが多くなっています。また、レクリエーションや運動等を実施している施設がほとんどで、身体機能の向上・維持を図っています。 |
◆介護予防通所リハビリテーション |
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病院や介護老人保健施設などでリハビリテーションを行う介護予防を指します。理学療法士や作業療法士が在籍しており、利用者が自立をして生活を送れるようにリハビリテーションを行います。身体機能の向上・回復を目的とするサービスで、関節可動域の訓練や、棒体操、バランスボールを使ったリハビリなどを行う病院も増えています。 |
地域密着型介護予防サービスは、通常の介護予防サービスと同じく、自立した生活を継続して送ることを目的とした支援を行っています。このサービスを利用できる方は、その市区町村に住んでいる方のみとなっており、地域に根差したサービスを提供していることが特徴です。
【対象者】 |
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要支援認定が1から2の高齢者が対象になります。 |
【サービスの流れ・利用方法】 |
介護予防サービスと同じく、地域包括支援事業所等に紹介されたケアマネージャーと相談し、ケアプランを作成します。そのケアプランに沿ったケアを実施していきます。 |
地域密着型介護予防サービスは、大きく分けて2つの種類のサービスに分類されます。
◆介護予防小規模多機能型居宅介護 |
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通所サービスがメインですが、状況に応じて、訪問介護や短期間の入所サービスを行います。様々な形態での組み合わせを状況に合わせて行い、利用者のケアプランに沿った介護予防を行っています。具体的なサービスは入浴・食事介助から身の回りのお世話、リハビリテーションまで多岐に渡ります。 |
◆介護予防認知症対応型サービス |
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認知症の高齢者を対象とした介護予防サービスです。「通所介護」と「共同生活介護」の2種類がありますので、以下をご参照下さい。 ・介護予防認知症対応型通所介護 デイサービス等で、軽い認知症の高齢者向けに食事、排せつ、入浴の介助を行っています。また、生活に関する相談や健康状態の確認、リハビリテーションといったサービスなども受けることができます。 ・介護予防認知症対応型共同生活介護 5人から9人程度の少人数で共同生活を行う住居にて、介助からリハビリテーションまでを行っています。共同生活を行い、アットホームの雰囲気を作ることで、症状の進行を遅らせて、出来る限り自立した日常生活を送れるようにすることを目的としています。また、共同生活介護は、要支援認定が2の方のみサービスを受けることができます |
地域支援型の予防サービスは、市区町村が主体となって提供している予防サービスです。サービスの対象と、種類について紹介します。
【対象者】 |
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要支援認定、介護認定を受けていないすべての65歳以上の高齢者が対象になります。 |
【サービスの流れ・利用方法】 |
他の介護予防サービスと同じく、介護予防のケアプランを地域包括支援センターなどで作成してもらうことで、利用することができます。 |
地域支援型の予防サービスは、対象者によって以下の2つに分類されます。
◆介護予防特定高齢者施策 |
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今後要介護や要支援になる可能性がある「特定高齢者」として市区町村から認定された※65歳以上の高齢者が対象の介護予防です。ほかのサービスと同じく、地域包括支援センターで、ケアプランの作成をしてもらうとサービスを受けることができます。訪問型と通所型に主に分類されます。訪問型は、ヘルパーが様々な介助、生活支援を行います。通所型の場合、生活支援に加え、介護予防についての講義やセミナーなどを開催しているケースもあります。この場合、医療法人や保健所、社会福祉法、公共団体等が主催となって開催します。 ※医師の診断を経て決定しており、高齢者医療確保法による特定健康診査等の場を活用することが多い。 |
◆介護予防一般高齢者施策 |
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65歳以上のすべての高齢者を対象とした施策です。介護保険を利用していない健康な高齢者も含まれます。各市区町村ごとに、介護予防支援活動や、普及・啓発などを行っています。支援活動としては、健康セミナーや講演会などの開催であったり、書道・絵画・料理教室の実施などがあります。また、地域イベントの参加、パンフレット配布や広報などによる周知活動により、介護予防の普及や啓発を行っております。 |
それでは、介護予防サービスを受けるためには、どのような手順を踏めばよいのでしょうか。サービスの種類によって異なる場合もありますが、多くのケースは下記のステップ通り進みますので、ぜひご参照下さい。
以前までの介護予防は、その手法が心身機能の改善を目的とした、機能回復訓練に偏りがちな面がありました。身体機能向上のみが有効であり、介護予防修了後も、利用者の活動的な状態を維持するための、地域社会への積極的な活動や参加といったアプローチに重点を置いてはいなかったのです。これからの介護予防では、身体機能向上だけに注目するのではなく、社会への参加や社会的活動にも焦点をあてていくことが不可欠となります。本人だけに留まらず、市町村が主体となって、高齢者の方々が生きがいや役割を担って生活できるような、地域づくりに取り組んでいくための介護予防促進を考える事が大切なのです。もちろん、実際に住み慣れた地域で暮らしていくために、必要な生活機能を向上していくという目的も引き続き重要な課題となります。