介護職員初任者研修は、これから介護を始める方にとって、最低限必要な知識や初歩的な技術を身につけることができる資格になります。資格を取得していなくても介護の現場で働くことはできますが、事前に体位変換や排泄介助など、介護を行う上で基本となる知識を学んでおけば、現場での飲み込みも早く、誤った認識で介護をしてしまう危険性も格段に減るでしょう。仕事や自宅で初めて介護を行う方は、最初のステップとして介護職員初任者研修を受けることをおススメします。介護職員初任者研修は、以前廃止されたヘルパー2級と同等の資格といわれていますが、ヘルパー2級よりも介護に役立つ内容が多く含まれているのです。ただし、ヘルパー2級にはなかった修了試験(筆記試験)が行われます。今回の記事では、そんな「介護職員初任者研修」を取得するメリットや研修内容、取得後のキャリアパスについてご紹介していきます。
2013年3月末でホームヘルパー2級の資格が廃止になりました。それに伴い、2013年4月から新たに誕生したのが、「介護職員初任者研修」になります。これまでは、介護資格のキャリアパスとしての仕組みが整っておらず、研修ごとの内容や範囲に一貫性がないことで、介護福祉士などの上位資格を取得するための流れが非常に複雑になっていました。そこで資格を一本化し、上位資格を一つに定めることで、介護職員としてのキャリアステップがイメージしやすくなりました。
みなさんご存知の通り、日本は世界でも稀にみる超高齢化社会を迎えています。それに伴って、介護職員の需要も高齢化に比例して増加の一途を辿っているのです。
厚生労働省の発表(※)によると、2016年の時点で介護業界で働く人の数はおよそ190万人程度であるのに対して、2025年までにはおよそ245万人の介護職員が必要になると試算されており、年間6万人ほどの人材を毎年確保していかなければならない計算になります。
※厚生労働省「第7期介護保険事業計画に基づく介護人材の必要数について」参照
それに加え、認知症や介護度が高い高齢者も増えてくることを考えると、正しい介護の知識や技術を持っている人材が必要となり、そのような人材が増えていくためには、キャリアパスを明確にし、研修内容や課程を一元化する必要がありました。
しかしながら、これまでの資格制度だと、「介護福祉士」の資格を取得するためのルートとして、「ホームヘルパー1・2級(訪問介護員養成研修)」を修了してからでも、「介護職員基礎研修」を修了してからでも受験できるなど、複雑化しており、実際にキャリアアップを目指す際に大変理解しづらい内容となっておりました。
そのような問題点を踏まえ、上位資格取得までの複雑な流れを一本化することになり、「介護職員初任者研修」→「実務者研修」→「介護福祉士」→「認定介護福祉士」と、資格取得後のキャリアパスが非常にシンプルになったのです。
介護保険制度の変更により、介護職員初任者研修を修了することで、しっかりとした知識・技術を身につけ、「生涯働き続けることができるという展望」を持てるようになり、実生活でも大変役立つ資格・能力を得ることができるようになりました。また、新たな制度として介護職員初任者研修を導入することにより、「重複していた勉強内容の排除」や「”認知症の理解”が学習項目に追加」になり、現在の介護現場のニーズに見合う知識を学ぶことによって、現場で対応できるキャパシティーが広がるのと同時に、介護のレベル向上にもつながりました。以下で詳しく説明していきます。
制度変更前のように、介護福祉士になるまでの資格取得ルートが複雑な体系だと、資格取得に必要な学習範囲がかなりの割合で重複しており、上位資格を取得するまでに、膨大な時間と労力が費やされてきました。そのような無駄をなくしていくためにも、学習する内容を明確化し、多種多様化する介護現場のニーズに応えるべく、必要性のある学習範囲に的を絞ることにより、上位資格を取得するまでの時間を大きく短縮し、介護士にとってキャリアアップしやすい環境が実現したのです。
近年、認知症患者の人口は増加の一途を辿っております。2025年にはおよそ700万人にもなると見込まれており、高齢者の5人に1人は認知症患者だといわれています。そういった現状から、ヘルパー2級から介護職員初任者研修に名称を改正後、新たに”認知症の理解”という項目が追加となり、初任者研修で学習する130時間のうちの6時間が割り当てられています。認知症について十分に理解し、介護士として認知症患者との関わり方はもちろんの事、利用者のご家族との関係性づくりについても学んでいくことが可能となります。
内閣府ホームページ(平成37(2025)年には65歳以上の認知症患者数が約700万人に増加 参照)
結論から申し上げれば、介護の現場で働く上での影響はありません。給与に関しても、面接を受ける場合でも特に差が生じることはないでしょう。とはいえ、名称の改定前後で学習内容が異なるので、全く同じ知識や技能を学べるわけではありません。
ここでは、「ホームヘルパー2級」から「介護職員初任者研修」への変更に関して、詳細な内容とその背景を解説していきます。
研修内容 |
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介護職員初任者研修への名称変更に伴い、ヘルパー2級では訪問介護事業所での介護を前提としていたのに対し、「在宅介護」と「施設介護」のどちらの環境でも資格の知識や技術を発揮出来るようになりました。そのため、就職先に関しても変更前より幅が広がり、ヘルパー2級の研修内容と比べて、より自分に合った施設や職場環境で働くことが可能となったのです。 |
学習時間数 |
介護職員初任者研修への名称変更を機に、施設実習の30時間分をなくすことで、新しい学習項目が増えました。その中に先ほどご紹介した「認知症への理解」が追加されており、これまで対応しきれなかった症状の患者にも、正しい知識や技能が伴った介護サービスを提供できるようになりました。すでに説明しましたように、認知症患者の数は増加傾向にあり、介護現場において、認知症に対して正確な知識を持った介護士が求められている現在、初任者研修の存在価値は今まで以上に高まったと言えるでしょう。 |
実数時間の減少 |
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研修カリキュラムの変更に伴い、「学習」と「実習」のバランスが変更になっています。「介護職員初任者研修」では、施設実習が廃止となり、現場での経験がない場合であっても、筆記試験に合格すれば資格を取得することができてしまいます。そのため、名称変更となった2013年前後で、知識量はさほど変わらないとしても、現場での経験値に多少差が出てしまう可能性があります。資格取得後でも、希望を出せば施設実習を受けることも可能です。現場経験のないまま介護職に就くことが不安という方は、一度実習に行ってみてはいかがでしょうか。 |
資格取得への難易度 |
ヘルパー2級の資格は、130時間の研修を修了することで取得できましたが、介護職員初任者研修の場合は修了までの課程が異なります。ヘルパー2級の時と同じように130時間の研修を受けた後に、筆記試験を受験し、合格しなければなりません。筆記試験は100点満点中、70点以上で合格となります。選択問題がほとんどで、多少ではありますが記述式の問題も出題されます。記述問題のコツは、文章量を多く書くというよりは、ポイントを抑え簡潔にまとめて書くいたほうが点数アップにつながりやすいでしょう。筆記試験は1時間程度となるので、まずは焦らず選択問題から解いていくと、落ち着いて記述問題に取り組めるでしょう。過去の出題傾向から、試験問題自体の難易度はそう高くはありません。しっかり授業を聞いて、復習する時間を確保できていれば、ほぼ誰でも合格することができます。もし万が一試験に落ちてしまった場合でも、再試験や追試制度がありますので、学んだ知識を無駄にしないように再度復習を重ね、十分に対策をしてから再チャレンジするのが良いでしょう。 |
「介護職員初任者研修」と「ホームヘルパー2級」の違いを、簡単にまとめてみました。以下の表をご参照下さい。
介護職員初任者研修 | ホームヘルパー2級 | |
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内容 | 在宅・施設どちらでも活用できる内容 | 在宅サービスを中心とした内容 |
受講時間 | 130時間(「認知症の理解」が追加) | 130時間 |
実習 | 無し | 30時間 |
実技スクーリング | 90時間 | 42時間 |
講義 | 40時間 | 58時間 |
修了試験 | 有り | 無し |
ここまで、ヘルパー2級から介護職員初任者研修への改名により、変更点や違いについて具体的に説明していきましたが、まだ多くの疑問や質問がある方も多いと思います。
そこで、よくある質問と回答(Q&A)をまとめてみましたので、初任者研修についてさらに理解を深めたい方々は、ぜひ参考にしてみてください。
A.ホームヘルパー2級は介護職員初任者研修に相当する資格であるため、受験する必要はありません。ただ受験資格がないというわけではありません。訪問介護だけではなく、施設介護のノウハウも一から学びたい、認知症への理解も深めたいという方は、自己学習も兼ねて受けてみるのも良いかもしれません。
A.受講するのに必須の資格や条件などはありません。もちろん介護職未経験の方でも問題ないです。年齢制限もありませんので、学生から70歳を越えるご高齢の方でも受講可能になっています。
A.通うスクールやコース(講座)によりさまざまですが、安いところであれば5万円前後から、高いところだと10万円以上の講座もあります。この料金の違いは、土日や夜間の開講の有無や、就職サポートの有無など、サービス内容の違いによって生じています。費用だけを見て安易に申し込むのではなく、仕事やプライベートに影響が出てしまうことがないか、といったように、無理なくご自身のペースに合ったスクールや講座を探してみてはいかがでしょうか。
なお、ハローワークの求職者支援制度を利用して、受講料無料で資格を取得することができます。ただし、受給条件を満たしている「特定求職者」が対象となり、初期費用としてテキスト代が1~3万円程度かかる他に、スケジュールの自由度があまりない、といったデメリットとなる部分もあるので注意が必要です。
A.講座によっては最短1カ月で終了できるコースが設けられているところもありますが、仕事との両立などで受講スケジュールを調整しながらの場合、平均でおよそ3~4カ月ほどの期間になっています。
A.受けられます。日本語の読み書きができ、日本語によるコミュニケーションがある程度可能であれば特に問題ありません。
初任者研修の研修では、全体で130時間のカリキュラムが用意されています。
科目は全部で10種類あり、研修は講義と演習で構成されています。まずは講義の中で介護の知識や技能について学習していきます。ヘルパー2級からの変更で実習が廃止となったことで、スクーリングの時間が増え、通信教育での学習時間が科目ごとに振り分けられているため、上限の時間数があらかじめ決められています。
ここからは、各研修項目の詳細についてご紹介していきたいと思います。
科目 | 合計時間 | 通信で実施できる上限 |
1.職務の理解 | 6時間 | 0時間 |
2.介護における尊厳の保持・自立支援 | 9時間 | 7.5時間 |
3.介護の基本 | 6時間 | 3時間 |
4.介護・福祉サービスの理解と医療の連携 | 9時間 | 7.5時間 |
5.介護におけるコミュニケーション技術 | 6時間 | 3時間 |
6.老化の理解 | 6時間 | 3時間 |
7.認知症の理解 | 6時間 | 3時間 |
8.障害の理解 | 3時間 | 1.5時間 |
9.こころとからだのしくみと生活支援技術 | 75時間 | 12時間 |
10.振り返り | 4時間 | 0時間 |
合計 | 130時間 | 40.5時間 |
まずはじめに、これから行う研修項目の概要を理解した上で、介護サービスとは何かを学習していきます。座学で居宅や施設における介護保険や介護保険外のサービスについての講義や、介護職員の仕事内容や職場環境についての理解を深めていきます。また、視聴覚教材やグループディスカッションを通して具体的なイメージを持ってもらうようになります。
尊厳と介護保険制度について学習していきます。介護士としてどういったことが求められているのか、QOLやノーマライゼーションの考え方などを学び、高齢者虐待防止などについての講義もあります。演習では、身体拘束の具体的な内容をグループで検討し、理解につなげていきます。
ここでは基礎となる介護における専門性や安全性、倫理観などについて学び、介護士としての社会的責任について理解を深めていきます。安全の確保やリスクマネジメントを学ぶだけでなく、感染症や病気に対しての予防や対策などについても学習していきます。
介護保険制度の意義や仕組み、障害者の概念・理念を学び、介護と医療の連携やリハビリテーション、 日常生活自立支援事業について理解していきます。
9時間のうち7時間程度が通信学習となります。
この6時間で介護現場におけるコミュニケーションについて学習をすすめていきます。
座学だけでなく、演習でもコミュニケーションの重要性についてグループディスカッションなどを通して、チームケアの必要性だけでなく、カンファレンスの重要性についても理解します。
老化による、こころや身体の変化がどのように日常生活に影響協を及ぼすのかを理解します。介護士としてのサポート内容を学び、高齢者に多いとされる生活習慣病や、老化が原因で発症する疾患などについて学習します。
ヘルパー2級の受講内容には含まれていなかった「認知症の理解」について学んでいきます。この学習内容が追加された背景には、認知症患者が年々増加しており、認知症への理解やそのご家族との関わり方について介護士が理解を深める必要があったためです。具体的な事例をもとにロールプレイングを行ったり、認知症患者とのコミュニケーション方法などを学習します。
身体障害・知的障害・精神障害がそれぞれどのような障害かを学びます。さらにノーマライゼーションの基本的姿勢を理解していき、障害による心理状態の変化や、それに伴う行動を理解することで、介護士としての役割を学んでいきます。
全体の130時間のうちの75時間を占めるため、最も密度が濃い学習項目となります。演習では食事介助・車椅子での介護・杖歩行の介助方・視覚障害者の誘導・部分浴や全身浴など、実際の介護現場同様の演習を行っていきます。演習は介護を実際に行うだけでなく、介護計画の作成もグループディスカッションを通して学習していきます。
最後の研修として、これまで研修してきた学習内容を振り返り、介護の重要性について再認識してもらいます。介護士としての自覚も少しずつ芽生え始める時期になり、ここまで学んだ知識を活かして、自分自身の介護観や、どのような介護士になりたいのか、キャリア形成についても話し合い、イメージを具体化していきます。
項目 | 科目 |
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1.職務の理解 | (1)多様なサービスの理解 (2)介護職の仕事内容や働く現場の理解 |
2.介護における尊厳の保持・自立支援 | (1)人権と尊厳を支える介護 (2)自立に向けた介護 |
3.介護の基本 | (1)介護の役割、専門性と他職種との連携 (2)介護職の職業倫理 (3)介護における安全の確保とリスクマネジメント (4)介護職の安全 |
4.介護・福祉サービスの理解と医療との連携 | (1)介護保険制度 (2)障害者総合支援制度及びその他制度 (3)医療との連携とリハビリテーション |
5.介護におけるコミュニケーション技術 | (1)介護におけるコミュニケーション (2)介護におけるチームのコミュニケーション |
6.老化の理解 | (1)老化に伴うこころとからだの変化と日常 (2)高齢者と健康 |
7.認知症の理解 | (1)認知症を取り巻く環境 (2)医学的側面から見た認知症の基礎と健康管理 (3)認知症に伴うこころとからだの変化と日常生活 (4)家族への支援 |
8.障害の理解 | (1)障害の基礎的理解 (2)障害の医学的側面、生活障害、心理・行動の特徴、かかわり支援等の基礎的知識 (3)家族の心理、かかわり支援の理解 |
9.こころとからだのしくみと生活支援技術 | (1)介護の基本的な考え方 (2)介護に関するこころのしくみの基礎的理解 (3)介護に関するからだのしくみの基礎的理解 (4)生活と家事 (5)快適な居住環境整備と介護 (6)整容に関連したこころとからだののしくみと自立に向けた介護 (7)移動・移乗に関連したこころとからだのしくみと自立に向けた介護 (8)介護に関連したこころとからだのしくみと自立に向けた介護 (9)入浴、清潔保持に関連したこころとからだのしくみと自立に向けた介護 (10)排泄に関連したこころとからだのしくみと自立に向けた介護 (11)睡眠に関連したこころとからだのしくみと自立に向けた介護 (12)死にゆく人に関連したこころとからだのしくみと自立に向けた介護 |
10.振り返り | (1)振り返り (2)就業への備えと研修修了後における継続的な研修 |
ヘルパー2級のときは理解しづらかったキャリアパスが、初任者研修に改定にあたり一本化され、非常に分りやすい仕組みとなりました。初任者研修の最上位資格は認定介護福祉士と定められ、キャリアアップしていく流れが明確化したのです。
ピラミッド式に初任者研修⇒介護福祉士実務者研修⇒介護福祉士⇒認定福祉士という順にキャリアパスが可能になり、いつまでにどのようなキャリアを描くことができるか、といったように、将来のイメージを描きやすくなったと言えましょう。
もちろん、介護福祉士は国家資格なので、必要な学習時間を確保しないと取得が難しい、難易度の高い資格になっています。そのため、取得すれば給与や待遇アップにも期待できますし、実際に取得後およそ1カ月で15,000円ほど昇給したという事例もあります。
さらにその上の認定介護士になると、リーダー職など、職場における責任も非常に大きくなり、介護福祉士の時よりも給与アップを期待できるでしょう。しかしその一方で、民間資格であることや、現状はまだ資格取得者が少ないことから、待遇については明確化されていないということには注意が必要です。