ある日突然、両親が病気で倒れてしまい、周囲に頼れる人が誰もいない中、在宅介護をすることになった…そのような状況から在宅介護を始めた人にとっては、両親の病気が心配であることに加え、介護の経験がなければ不安な気持ちでいっぱいになってしまうことでしょう。そして、実際に介護を始めてみると、現実には想像以上に様々な問題を抱えることになり、在宅介護の限界を感じている人は多いはずです。今回は、在宅介護をする家族などの方々がどのような悩みや問題に直面しているのか、そうした在宅介護の実態を取り上げていきたいと思います。
在宅介護を始めた人にとって、どのくらいの人がどのような悩みやストレスを感じているのでしょうか。厚生労働「平成28年 国民生活基礎調査の概況」によると、在宅介護の経験者に対する調査を実施していますので紹介したいと思います。まず、在宅介護をする人の中で悩みやストレスを感じている人は全体の68.9%もいましたが、この中には在宅介護をする本人が病気や介護が必要だったりするケースもあることが分かり、過酷な状況であることを浮き彫りにしていました。また、ほかにも在宅介護のおける悩みやストレスには、経済的なことや、介護によって自由な時間がなくなることなど、10の原因が挙げられています。以下、詳細を記載しますのでご覧ください。
①家族の病気や介護(73.6%男性、76.8%女性) ②自分の病気や介護(33.0%男性、27.1%女性) ③収入・家計・借金等(23.9%男性、18.7%女性) ④家族との人間関係(12.1%男性、22.4%女性) ⑤自由にできる時間がない(14.9%男性、20.6%女性) ⑥自分の仕事(19.6%男性、13.0%女性) ⑦家事(8.1%男性、7.7%女性) ⑧住まいや生活環境(6.3%男性、7.1%女性) ⑨家族以外との人間関係(6.0%男性、6.6%女性) ⑩生きがいに関すること(6.8%男性、5.9%女性) 出典:厚生労働「平成28年 国民生活基礎調査の概況」 注)熊本県を除いたものである。 |
どのような原因で介護が必要になったのか調べてみると、全体的には認知症が18.0%、次いで、脳血管疾患(脳卒中)16.6%、高齢による衰弱 13.3%の順であることが分かりました。ちなみに、介護を受けている年齢では、男性80~84 歳(26.1%)、女性85~89 歳(26.2%)が最も多くなっています。
■第1位 認知症 18.0% | |
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要支援者 | 関節疾患 17.2% |
要支援1 | 関節疾患 20.0% |
要支援2 | 認知症 24.8% |
要介護者 | 認知症 24.8% |
要介護1 | 認知症 24.8% |
要介護2 | 認知症 22.8% |
要介護3 | 認知症 30.3% |
要介護4 | 認知症 25.4% |
要介護5 | 脳血管疾患(脳卒中)30.8% |
■第2位 脳血管疾患(脳卒中)16.6 % | |
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要支援者 | 高齢による衰弱 16.2% |
要支援1 | 高齢による衰弱 18.4% |
要支援2 | 関節疾患 14.7% |
要介護者 | 脳血管疾患(脳卒中)18.4 % |
要介護1 | 高齢による衰弱 13.6% |
要介護2 | 脳血管疾患(脳卒中)17.9% |
要介護3 | 脳血管疾患(脳卒中)19.8% |
要介護4 | 脳血管疾患(脳卒中)23.1% |
要介護5 | 認知症 20.4% |
■第3位 高齢による衰弱 13.3% | |
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要支援者 | 骨折・転倒 15.2% |
要支援1 | 脳血管疾患(脳卒中)11.5% |
要支援2 | 脳血管疾患(脳卒中)14.6% |
要介護者 | 高齢による衰弱 12.1% |
要介護1 | 脳血管疾患(脳卒中)11.9% |
要介護2 | 高齢による衰弱 13.3% |
要介護3 | 高齢による衰弱 12.8% |
要介護4 | 骨折・転倒 12.0% |
要介護5 | 骨折・転倒 10.2% |
出典:厚生労働「平成28年 国民生活基礎調査の概況」
注)熊本県を除いたものである。
介護時間の時間については、「必要な時に手をかす程度」と回答した人が全体の44.5%と高く、次に多いのは「ほとんど終日」と回答した人が22.1%もいました。介護度によっても介護に必要な時間は変わってくる訳ですが、要支援1では6.1%、要介護5では54.6%の結果となっているのが現状です。
・ほとんど終日 22.1% ・半日程度10.9% ・2-3時間程度10.7% ・必要な時に手をかす程度44.5% ・その他8.0% ・不詳3.8% |
要支援者 | |
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要支援1 | 6.1% |
要支援2 | 6.4% |
要介護者 | |
要介護1 | 14.6% |
要介護2 | 20.7% |
要介護3 | 32.6% |
要介護4 | 45.3% |
要介護5 | 54.6% |
出典:厚生労働「平成28年 国民生活基礎調査の概況」
注)熊本県を除いたものである。
前述の調査結果からも分かる通り、在宅介護の現状はかなり深刻なものです。
在宅介護は、介護する方の状態にもよると思いますが、同居している人の協力や、経済的な問題、介護にかけられる時間など、続けていくためには様々な問題を解消しなければなりません。しかしながら、問題の解決にも限界がありますので、どうしても対応が困難になるようでしたら、老人ホームや介護施設へ入居することを考えるべきでしょう。その前に、相談に応じてくれる公的機関の相談窓口もあるため、どのように対処すべきか相談することで、自分では気が付かなったような解決策が見つかる場合もあります。
どのような問題かはそれぞれに違いがありますが、例えば経済的な負担が大きな問題になっているのであれば、生活保護を視野に入れた対応が必要なのかもしれません。公的機関などの相談窓口には下記のような場所があります。
1.在宅介護支援センター |
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在宅介護支援センターは、社会福祉士、看護師などの専門職員が地域の高齢者の在宅介護に関する相談を受けており、介護が必要な方に向け、保健や福祉サービスが受けられるようにするため、行政機関、サービス提供機関、居宅介護支援事業所等との調整も図ってくれます。また、地域の高齢者の実態を把握するため、民生委員や地域からの情報をもとに、日常生活に支援が必要な方に対し、訪問等による対応まで行ってくれます。 |
2.地域包括支援センター |
地域包括支援センターは、地域に住んでいる65歳以上の高齢者、またはその介護などに関っている方が利用でき、保険、医療、福祉などの専門的な支援を行っています。地域によって呼び方は異なりますが、市区町村には必ず設置されている相談機関です。地域包括支援センターには、ケアマネジャー、保健師、社会福祉士などが在籍し、介護サービスをはじめ、介護予防サービス、保健福祉サービス、日常生活支援などの相談に応じてくれます。 |
3.市役所・区役所 |
各地域の市区町村の担当課となる介護保険課、高齢者福祉課などで、介護保険制度や高齢者の保健福祉に関する総合的な相談が可能です。 |
在宅介護は、身体的もしくは精神的な負担が重なると、いわゆる「介護疲れ」を感じていきます。核家族化が進んだ現代においては、家族による介護の環境としては、周囲から孤立しやすくなっていると言えるでしょう。こうした環境を考えると、介護する方の孤立感や閉塞感が深まり、精神的なバランスを崩れてしまうと、介護を放棄したいといった危機的な状況を迎える可能性が出てきます。介護に限界を感じている方は無理をせずに、公的機関などを利用して最適な方法を知ることや、老人ホームや介護施設などの入居も早期で決断することが必要かもしれません。