皆さんは、「介護職」と聞いてどのようなイメージを持たれているでしょうか。所謂、3K(きつい、汚い、危険)といった言葉などもあるように、きついお仕事という印象が強いというのが実際のところかと思います。とはいえ、高齢化社会に突入し、少子化などの問題を抱える現代日本において、介護職の需要は高まり続けています。本稿では、そんな「介護の仕事」について、改めて徹底解説していきます!
一口に介護の仕事といっても、その内容は様々です。利用される方の状態によっても変わりますし、介護福祉やケアマネージャーといった資格を持っていれば、ケアプランの作成や介護給付費の管理といった業務も担います。ここでは、介護士(ヘルパー)が担う基本業務について紹介していきましょう。
実際に利用者の方の身体に触れて、様々な介助を行います。代表的な例は以下になります。
食事介助 | 食前·食事·食後全ての環境をサポートします。対象となる方の一人ひとりに合った食事の形態を提供し、栄養を摂ることは勿論、食事の楽しみを味わってもらうようにします。 |
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入浴介助 | 自力で入浴することができない方に対して、介助を行います。転倒などのリスク軽減といった意味合いも含まれますので、介護の専門的なテクニックが必要とされます。 |
排泄介助 | ひとりでは排泄が難しい、排泄機能に障がいを持たれている、といった方に対して行う介助です。トイレへの誘導から実際の排泄の手伝い、オムツ交換などが含まれます。 |
着替えの介助 | うまく着替えをすることが困難な方に対する介助です。利用される方々の状態にもよりますが、身体機能低下の予防も兼ねて、極力自分でやってもらいながら、様子を見て着替えの手伝いをするといった形が多いようです |
移動介助 | 日常生活の基本的な動作、起きる·座る·歩くといったことが困難になっている利用者の方の移動をお手伝いします。対象となる方の状態によって、杖や車いすを利用するなど、その介助方法は様々です。 |
寝たきりであったり、身体を動かすことが困難な方も多いので、訪問介護などでは、掃除·洗濯·料理などといった日常生活の家事援助も担当します。日常生活で必要な最低限の買い物やごみ出し、薬の受け取りなども、必要に応じて適時行っていきます。
介護職が働く勤務先としては、介護施設や医療機関、利用者のご自宅などがあります。主な職場を下記にまとめてみましたので、ご参照ください。
老人ホーム |
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老人ホームの種類として、「特別養護老人ホーム」や「介護老人保健施設」、「有料老人ホーム」に「認知症型グループホーム」といったものがあります。それぞれ違いがあり、施設の目的などに合わせて介護士の仕事内容も変わっていきます。 |
デイサービス・デイケア |
利用者が、自宅から施設に通って介護·リハビリを受けるサービスです。通所の介護業務に加えて、車で送迎する業務なども担当します。 |
訪問介護(ホームヘルパー) |
利用者の自宅を訪問して、介護サービスを提供します。ケアマネージャーのケアプランに沿った介護を行い、利用者の状況などを報告する業務などを担います。 |
医療施設 |
病院などで働く介護士の業務としては、主に入院患者の介助や看護師の補助といったものがあります。カルテの整理や医療器具の消毒、といったような雑務も含まれます。 |
介護職は、無資格·未経験であっても仕事をすることは可能です。但し、できる業務とできない業務がありますので、注意が必要です。具体的には、事業所の雑務及び事務仕事、利用者の送迎(要·運転免許証)、食事の用意や部屋の清掃といった仕事に関わることは可能ですが、上述したような身体介護などの、利用者の身体に直接触れるような仕事はできません。
介護の仕事を続けようと考えているのであれば、介護関連の資格を取得しておくべきと言えます。代表的な資格を紹介しますので、以下をご参照ください。
身体介護の仕事をするために、必要な資格となります。 以前廃止されたホームヘルパー2級と同等の資格と言われ、受験資格などはとくにありません。但し、ヘルパー2級にはなかった修了試験(筆記試験)があります。最低限必要な知識や初歩的な技術を身に付けることができるため、介護職のスタートラインに立つための資格、と言えるでしょう。
初任者研修の上位資格です。より多くの介護知識·技術を得ることができ、たん吸引·経管栄養の基本研修の免除などもあります。「サービス提供責任者」へのステップアップの最低ラインの資格とも言われており、また、介護福祉士の受験資格の条件に実務者研修の取得が含まれるため、介護職のキャリアアップには欠かせない資格となります。
「社会福祉士及び介護福祉士法」に基づく、現時点では介護職唯一の国家資格です。資格を取得することで、生活相談員や現場の主任・チームリーダーとしてのキャリアアップが可能となります。受験資格として、指定された養成施設等を卒業する養成施設ルート、福祉系高校で、定められた科目·単位を取得し卒業する福祉系高校ルート、3年以上の実務経験および介護職員実務者研修の修了といった実務経験ルートの3種類があります。
介護保険制度に基づき、介護サービスを利用できるようにケアプランを作成することができる資格です。介護保険のスペシャリストであり、介護における「コーディネーター」のような役割を担っています。「介護福祉士」の資格を取得後に、更なるステップアップとして目指すことが多い資格となります。受験資格としては、実務経験が5年以上あることに加えて、介護福祉士や作業療法士など特定の法定資格を有しているか、生活相談員や支援相談員としての経験があることが必須となっています。
冒頭で述べたように、介護の仕事はつらく大変で、マイナスのイメージが強いことも事実です。ですが、公益財団法人 介護労働安定センター「平成29年度 「介護労働実態調査」の結果」によると、介護職を選んだ方の5割以上が、「働きがいのある仕事だと思ったから」と答えています。
介護職ならではのやりがいや魅力、メリットとは、一体どのようなものなのでしょうか。
厚生労働省の発表によると、2020年度末までに約26万人、2025年には約38万人もの介護職員が不足するといわれており、年間6万人程度の介護人材を確保する必要があるのです。年々介護職の需要は高まっていると言われていますが、介護職における職探しに困ることはないと言えるでしょう。また、少しずつではありますが、基本給や手当も上昇傾向にあるようです。給料の安さを指摘されがちな介護業界ですが、今後の需要も鑑みて、更なる待遇改善が期待できるのではないでしょうか。
介護職の全国男女比は女性が全体の約70%、残りの約30%が男性となっております。介護業界で働く女性の8割がパート勤務であることから、介護職は雇用形態によっては、子育てなどで必要な時間の融通が効く職場と言えます。また、女性中心の職場であるからこそ、キャリアアップを目指す上で、性別が弊害になることはありません。資格を取得していくことによって、パートタイムから管理職へ、といったことも可能なのです。
介護の仕事に就いていなくても、介護自体はほとんどの方が関係してくる、非常に身近な問題と言えます。ご家族の介護が必要となった場合に、介護の仕事を通じて得た技術・知識は確実に役に立つことでしょう。
介護職は、利用者一人ひとりと向き合い、密接に関わっていく仕事です。真摯に向き合い、人のために努力することで、利用者の方のみならず、そのご家族からも感謝されることも多く、現場で働く介護士ならではの喜びを味わうことができます。
やりがいやメリットも多くある介護職ですが、当然ながら、大変なことやつらいこともあります。先述した3Kだけでなく、最近は、2K(くさい、給料が低い)も含めて5Kなどと呼ばれることもあるようです。介護の仕事で大変なことや、つらいことの例を幾つか挙げてみました。
とくに大柄な利用者の方の身体介護などの際には、入浴介助や移動介助などで相応の体力が必要となります。肉体労働と言える業務も多く、体力に自信のない方には大変だと感じるでしょう。
排泄介助の際には、排泄物は必ず目に入ります。また、食事介助の際に食べこぼしの片づけや、よだれなどを拭いて差し上げるといったことも必要になってきますので、汚いと感じる人も多くいるでしょう。とはいえ、そういったことも避けて通れないのが介護の仕事になりますので、あくまで仕事と割り切るタフな精神が求められます。
厚生労働省 「介護労働の現状」によると、介護職の退職理由として最も多いのが、職場の人間関係となっています。どの職業でも職場の人間関係に関する悩みは大きなウェイトを占めているものですが、介護の現場に関して言えば、慢性的な人材不足による業務過多による、同僚または他職種とのコミュニケーション不足などが挙げられます。他職種との関係性については、とくに医療従事者との軋轢などを感じる、といった側面があるようです。
介護職の方々は責任感も強く、高い理想を持って勤務されている方が多いです。それ故に、病院及び施設が掲げる運営方針などが、実際には著しく違っていた場合に、苦痛に感じてしまうでしょう。介護職として誇りを持って仕事をしていても、過重労働を強いられ続けてしまっては、退職の道を選ばざるを得なくなってしまいます。給与面における不満も含めて、介護現場の早急な待遇改善が求められているのです。
介護現場における「3K」とは別に、もう1つ大きな課題となっているのは賃金です。
厚生労働省「平成 30 年賃金構造基本統計調査」によれば、介護職を他の職業(全産業)と比較してみると、福祉施設介護員の平均月収が223.700円に対し、全産業の平均月給は268.300円となっていましたので、平均的に見ても介護職員の月収は44,600円も少ないことが分かります。こうした背景には、介護職の収入源となる「介護報酬」については、政府が公定価格を定めており、各施設で自由に「介護報酬」を変えることが出来ない事情もあります。「介護報酬」から得られた収益は、一般的には約6~7割を人件費に充てており、サービス内容と価格を自由に決めて介護報酬を増やすことができないため、賃上げが難しい構造になっています。しかし、2019年10月には介護職員等特定処遇改善加算(新加算)の開始もあり、介護職員の賃上げにも期待が高まっています。
参考:厚生労働省「平成 30 年賃金構造基本統計調査」
介護職がハードな仕事であることは事実ですが、これまで説明してきましたように、利用者一人ひとりの人生に寄り添い、サポートすることのできる立派な職業です。介護職を指して言う3Kもしくは5Kについても、現在では「感謝」「かっこいい」「クリエイティブ」といったような、ポジティブな意味合いでの「K」として表現する人たちが現れています。厳しい労働環境の中でも、介護職側から、誇りを持ってそのようなイメージを打ち出していくようになっていることは、介護業界にとってもプラスになると言えるのではないでしょうか。