利用者のニーズに合わせて、介護のサービスや施設が多様化したこともあり、「小規模多機能型居宅介護」と聞いてもなかなかピンとこない方も多いことでしよう。
「小規模多機能型居宅介護」は、平成18年から地域密着型のサービスとして開始された比較的新しいサービスですが、その仕組みが少々複雑でわかりにくいところがあります。そこで今回は、「小規模多機能型居宅介護」について誰にでもわかるように、わかりやすく解説していきたいと思います。
まず、一般的に知られている居宅介護とは、居宅介護支援事業所のケアマネジャーが、訪問介護(ホームヘルパー)や通所介護(デイサービス)、短期入所生活介護(ショートステイ)など、それぞれ異なる介護サービス事業者と連携・調整しながらケアプランを作成する必要がありました。そのため、サービスによって受ける場所が異なり、さらに個々の事業所とそれぞれに契約を交わすことが必要となります。しかし、「小規模多機能型居宅介護」では、1つの事業所と契約するだけで、一般的な居宅介護で受ける訪問介護(ホームヘルパー)、通所介護(デイサービス)、短期入所生活介護(ショートステイ)が同じ施設で受けられる仕組みです。
この「小規模多機能型居宅介護」は、自宅で生活しながら通所介護(デイサービス)を中心に介護サービスを受けている方が、訪問介護(ホームヘルパー)や短期入所生活介護(ショートステイ)を状況に応じて組み合わせることができますので、緊急時の急な対応も可能であることから、使い勝手が良く、同じ施設・同じ介護職員のケアで環境を変えずに安心したサービスが受けられるようになりました。
こうしたことで、例えば認知症の高齢者の場合、記憶や認知機能の障害により、自分がいた場所がわからなくなってしまったり、周囲の環境の変化に対応できないケースもありますが、介護を受ける環境の変化による利用者の不安や混乱などの負担を軽減することにも貢献してくれます。
しかも、月額定額制で「通所」「短期間宿泊」「訪問」の全てのサービスが横断的に利用できるため、介護者の状態が変化した場合でも、スムーズにサービス内容の変更が行えるほか、定額制となるので介護保険利用限度額を超える心配もないため、大変便利で利用しやすいサービスとなっています。
訪問 |
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・あらかじめ時間帯や回数が決まっているわけではなく、希望の時間帯に対応してもらえる。 ・5分間など、短い時間でも対応してもらえる。 ・すぐに訪問して様子を見てもらいたいときにも対応してもらえる。 |
通い |
・デイサービスなどとは異なり、全員一緒に活動するわけではなく、個々の希望を聞いてもらえる。 ・午前中だけ、または夕方から延長など、通う時間帯によって自由に対応してもらえる。 ・食事の回数、入浴なども対応してもらえる。 ・イベントやレクなどには希望で参加できる。 |
宿泊 |
・ショートステイのように早くから日程が決まっているわけではなく、急な宿泊にも対応してもらえる。 ・前日宿泊からそのまま通いとして施設を利用することができる。 |
ここまで聞くと融通がきいて良いこと尽くしに思える「小規模多機能型居宅介護」ですが、居宅介護支援、通所介護、通所リハビリテーション、訪問看護、夜間対応型訪問看護、ショートステイなど、登録していた介護保険サービスが利用できなくなったり、ケアマネジャーも「小規模多機能型居宅介護」専門の方に変更したりすることになるので、全てが万能なわけではありません。
「小規模多機能型居宅介護」を利用する場合の条件は、登録されている方であれば何度でも利用が可能です。
ただし、1つの事業所において利用者の登録定員は29名までとされており、デイサービスを1日に受けられる定員は18人以下、ショートステイを1日に受けられる定員は9人以下と決められています。
「小規模多機能型居宅介護」は、要介護の認定を受けた方で、要支援1~2、要介護1~5の方が対象となります。
要支援1~2の方の場合には、「小規模多機能型居宅介護」と同じようなサービスを受けられる「介護予防小規模多機能型居宅介護」もあります。
なお、「介護予防小規模多機能型居宅介護」の場合には、要支援1~2の方のみが対象となりますので、要介護の方はサービスを利用することができません。要支援の方の状態がそれ以上悪化しないようにすることを目的としています。
「小規模多機能型居宅介護」は、1カ月の定額制となりますが、介護保険費用の負担は1~3割(所得による)で、事業所が利用者の住んでいる建物と同じかそうでないかで介護報酬は異なり、同じ建物に住んでいる場合のほうが安くなります。
さらには、認知症やサービス提供体制強化などの場合には、介護保険利用料の加算料金が加わることになります。詳しくは下記の介護保険利用料の加算料金を確認しましょう。
介護報酬 利用者負担(1割)
<要支援1> | 3,403単位 | 3,403円 |
<要支援2> | 6,877単位 | 6877円 |
要介護1 | 10,320単位 | 10,320円 |
要介護2 | 15,167単位 | 15,167円 |
要介護3 | 22,062単位 | 22,062円 |
要介護4 | 24,350単位 | 24,350円 |
要介護5 | 26,849単位 | 26,849円 |
介護報酬 利用者負担(1割)
<要支援1> | 3,066単位 | 3,066円 |
<要支援2> | 6,196単位 | 6,196円 |
要介護1 | 9,298単位 | 9,298円 |
要介護2 | 13,665単位 | 13,665円 |
要介護3 | 19,878単位 | 19,878円 |
要介護4 | 21,939単位 | 21,939円 |
要介護5 | 24,191単位 | 24,191円 |
【介護保険利用料の加算料金(介護保険1割負担の場合)】 |
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・初期加算/30単位・日 32円 64円 95円 ・認知症加算/(1)800単位・月 844円 1,688円 2,532円 ・認知症加算/(2)500単位・月 528円 1,055円 1,583円 ・看護職員配置加算Ⅰ/900単位・月 950円 1899円 2,849円 ・サービス提供体制強化加算(Ⅱ)/350単位・月 370円 739円 1,108円 ・訪問体制強化加算/1,000単位・月 1,055円 2,110円 3,165円 ・総合マネジメント体制強化加算/1,000単位・月 1,055円 2,110円 3,165円 ・介護職員処遇改善加算(Ⅰ)/定単位数に10.2を乗じた単位数で算定 |
※上記の他にも、介護保険給付対象外サービスの利用料として、食費やオムツ代、宿泊の際の部屋代など事業所との契約によって違いますが、別途、自己負担する費用があります。
・ホームヘルパー、デイサービス、ショートステイ事業所内の職員が一つの場所ですべて行うため、情報交換がスムーズにでき、利用者の方の状況を把握しやすく仕事を円滑に行うことができるでしょう。 ・少人数制であるため利用者1人ひとりとじっくり向き合い信頼関係を築きやすい。 ・訪問介護・通所介護・ショートステイの業務を学ぶことができ、その役割を知り介護の流れをつかみ、広い視野で業務を行うことができる。 ・3つの介護サービスを臨機応変に組み合わせ柔軟に対応するため、発想する力を育てることができ、急な変更や緊急事態も慌てず対応することができるようになる。 ・職員同士のコミュニケーションがとりやすい。 ・地域密着の小規模な施設のため、仕事を通して地域に貢献できる。 |
・急な変更にも対応するため利用者の方の状況を細かく把握しておくことが必要になる。 ・苦手な職員がいても毎日顔を合わせることになる。 ・訪問介護での家事援助や通所介護でのレクリエーションの司会進行など様々なスキルが必要とされ、それらをすべて覚えなければならない。 ・24時間体制なので、夜勤もある。 ・必ずしも看護師が配置されているわけではないので、基本的な医療ケアの知識も必要となる。 |
ここでは、要介護1の方が「小規模多機能型居宅介護」を利用した場合を仮定し、どのくらいの費用がかかるのか、シミュレーションしてみました。
下記は、実際に「小規模多機能型居宅介護」で提供されている介護保険給付対象外サービスの利用料を参考にして計算しています。
[要介護1の方の利用例(仮定)] | |
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月曜日 | 通所介護×4回 |
火曜日 | 通所介護×4回 |
水曜日 | 訪問介護×4回 |
木曜日 | 訪問介護×4回 |
金曜日 | 通所介護×4回 |
土曜日 | 訪問介護×4回 |
日曜日 | 泊まり×4回 |
※上記は1週間の利用サイクル(仮定)です。
要介護1の方が上記のサイクルで1ヶ月利用した場合の料金は、次のようになります。
※1ヶ月の利用回数の合計は、通所介護12回、訪問介護8回、泊まり4回となります。
・定額料金:10,320円 ※1割負担と仮定した場合 ・介護保険給付対象外サービスの利用料:20,000円 〈内訳〉 ・食費:12,000円(24食と仮定/@500円) ※通所介護が月12回(1食)、泊まり月4回(3食)の計16回で計算 ・宿泊費:8,000円(4回と仮定/@2,000円) |
合計:33,320円(※月額利用料の概算) |
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