「介護には休みも終わりもない」――介護に疲れ果ててしまい、心身ともに限界を感じている介護者の方は多くいるのではないでしょうか。
そこで今回の記事では、介護疲れの原因を探り、介護者の方に役立つサービス、介護疲れの軽減法、さらには介護ストレスの解消法もご紹介いたします。
まだ介護疲れの自覚がない方にも、その兆候がないか判断できるセルフチェックリストありますので、どうぞ最後までお読みください。介護疲れは、社会全体の問題でもあります。決して一人で抱え込まないようにしましょう。
厚生労働省が2016年に公表した「国民生活基礎調査の概況」によると、同居の主な介護者について、日常生活での悩みやストレスの有無を確認したところ、「ある」が68.9%、「ない」が26.8%となっております。下記の表をご参照下さい。
高齢者の方が身近にいる環境であれば、いつ介護が必要な生活となってもおかしくありません。介護の覚悟や準備のないまま、平穏な日常生活が突如一変して介護生活が始まることがほとんどです。その日常が変わっただけでも、介護者にとってはかなりのストレスになるでしょう。しかも昨今では、地域や親族との関係が希薄な家族が多く、“介護者の孤立化”がより一層深まっています。そして、助けを求めたくとも求める手段を知らない介護者のストレスは、遠からず“介護疲れ”に繋がることになるのです。この介護疲れは、決してあなた一人だけが抱え込んでいる悩みではなく、介護をしている方であれば、誰にでも起こり得る悩みです。まずは、介護疲れの原因を探っていきましょう。
介護という作業は、要介護者の衣服の着脱・入浴・食事・排せつなど、生活する上で必要な動作に合わせて身体を支える必要があります。要介護者の身体介助は、それこそ建設現場の肉体労働に匹敵するぐらいの体力が必要となると言っても過言ではありません。そのため、身体介助は介護者の身体的な負担が大きく、体力不足や腰痛などに悩まされる介護者も多くいます。適切な指導を受けているプロの介護職員ですら、悩まされるほどの身体的負担なのです。何の指導も受けていない一般の介護者であれば、相当な負担を感じることでしょう。
さらに、夜中の排せつなどの介助で寝不足になり、日常生活にも影響を及ぼします。日中の仕事も手につかず、体調が悪化してしまい、介護疲れの原因となっていくのです。
また、上述した平成28年度の「国民生活基礎調査の概況」によると、75歳以上の要介護者・要支援者を主に介護する人の実に30.2%が、75歳以上の配偶者であることが判明しております。少子高齢化や核家族化という社会背景から、高齢者が高齢の要介護者を介護するという、いわゆる“老老介護”の世代が3割を超えているというのが現実なのです。高齢の介護者は体力が衰えてしまっている分、身体的負担ももちろんですが、体力に限界を感じる方が多いようです。
人は何かをする際に、その目標やゴールが明確であれば、やる気が出て頑張れるものですが、それを介護に置きかえるとゴールはどこになるのでしょうか?
たとえば、要介護者の方の症状が回復できる望みが薄い場合、ゴールは要介護者の方を看取るまでということになります。要介護者の方に一日でも長く生きてほしいと懸命に介護をする一方で、看取るまでという不明確なゴールに向かいながら、毎日介護をする苦労や葛藤は、相当なストレスになるでしょう。特に要介護者の方が認知症を患ってしまった場合、認知症により変貌していく姿に心を痛める中で、日々の介護疲れもつらいものになっていきます。
また、仮に介護において周囲のサポートが皆無であった場合や、訪問ヘルパーさんとの相性も良くないとなってしまうと、閉塞感や孤独感の波が押し寄せてきて、一人ですべてを抱え込んでしまうことになります。孤独は、私たちの想像以上に精神的な負担となり、介護疲れを加速させる原因となります。
家計経済研究所が2016年に発表した「在宅介護のお金と負担」によると、在宅介護による費用は平均で月々5万円となっております。介護にかかるお金は想像以上に家計を圧迫します。デイサービスでは利用料金を支払い、在宅介護では生活必需品はもちろんのこと介護用品(紙おむつや防水シート等)も大きな出費となります。訪問ヘルパーさんに来てもらうにも、介護サービス費用がかかります。また、介護者が今までと同じように働くことができれば、出費の問題は多少軽減されるかもしれませんが、介護に対して理解のある会社はまだまだ少ないのが現状で、福利厚生に時短勤務や介護休暇制度がない職場は多くあります。そのため、介護離職をせざるを得ない状況で収入も減れば、経済的な負担からの心労も深刻なものとなってしまいます。
①~③の原因からなる介護疲れは、多くのトラブルを生む要因となり、下記に挙げたような事態を引き起こしかねません。
介護離職 |
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介護と仕事の両立が出来ず、退職を余儀なくされることです。仕事が辞めれば当然収入が激減し、描いていたキャリアプランも白紙になってしまうことで、更なるストレスを生んでしまいます。2018年に総務省が公表した「平成29年就業構造基本調査結果」によると、介護をしている人は実に約628万人で、仕事を持っている人は約346万人となっております。つまり、6割近い人が働きながらの介護を行っているのです。その現状を鑑みると、介護離職は非常に深刻な問題であると言えましょう。 |
介護うつ |
介護疲れから発展してしまう“うつ状態”です。身内の介護をしっかりとする方々は、責任感も強く真面目であるからこそ、自分の体調を度外視して介護に専念してしまう傾向にあります。それでも介護を取り巻く環境はなかなか変わらないので、気付かないうちに“うつ状態”も悪化してしまうのです。 |
介護殺人 |
将来を悲観したり、もう楽になってほしいという思いで要介護者を殺害してしまう痛ましい事件が多発しています。介護する側が、介護の対象者を殺害するだけでなく、反対に、もう楽になりたいと要介護者が死を望む、というケースもあります。こういう事態を引き起こさない為にも、介護をしている方々は、後述する介護疲れのセルフチェックを確認して、今のご自身の状態を把握するように努めましょう。 |
介護疲れは、その人に自覚がなかったとしても、症状として現れることがあります。
ぜひ、下記のチェックリストを確認してみてください。該当するものが多いほど、介護疲れを感じている可能性があります。なお、症状が1ヵ月以上続くのであれば要注意です。早めのカウンセリングや、然るべき自治体などの機関への相談をオススメします。
後述する介護疲れの軽減法や介護ストレスの解消法なども、併せて活用してください。
ここでは、介護疲れを軽減する方法をご紹介します。直接的な介護負担を減らすことができれば、介護疲れの軽減が見込めます。ぜひ、積極的に下記3つの軽減方法に取り組んでみてください。
まず、各自治体の“介護保険課”もしくは“地域包括支援センター”に行き、ケアマネジャー(介護支援専門員)を探しましょう。主治医によってはケアマネジャーを紹介してもらうことも可能なので、一度相談してみてはいかがでしょうか。ケアマネジャーは、各家庭の立場に立ってケアプラン(介護サービス計画書)を作成をする役割を担っています。経済的な話から、どこまでを親族で介護を行い、どこから介護支援サービスを受けるのか、などの相談を親身になって聞いてくれます。そのような話し合いを経た上で、作成してもらったケアプランに基づいた介護支援サービスを利用することで、無理のない介護を行うことができるでしょう。なお、ケアマネジャーへの支払いは介護保険負担なので、費用はかかりません。まずは気軽に相談してみましょう。続いて、具体的な介護疲れの軽減になる介護支援サービスについてご紹介したいと思います。
デイサービス (通所介護) |
日帰りの短時間の介護を依頼できるサービスです。自宅から送迎車に乗って、デイサービスを行っている施設へ向かい、レクリエーションから食事や入浴、生活支援などを受けることができます。 |
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ショートステイ (短期入所生活介護) |
数日間から連続して最大30日まで、専門の介護施設などに宿泊して介護サービスを受けます。出張や旅行など、短期間家を留守にするときなどに活用できます。 |
訪問介護 | 訪問介護員(ホームヘルパー)が自宅を訪問し、ケアプランに基づいた身体介護と生活援助を行うサービスです。夜間対応型訪問介護もあります。 |
訪問入浴介護 | 訪問入浴車で自宅を訪問し、要介護者の入浴を介助するサービスです。横になったまま入浴することが可能なので寝たきりの方でも利用できます。 |
上記のサービスは介護保険適用内なため、料金の自己負担額は軽くなりますが、これからご紹介する介護支援サービスは介護保険適用外となり、全額自己負担になることにご注意ください。
全国の各自治体が独自に行ってるサービスとして、「おむつ配送助成サービス、配食サービス、訪問理美容サービス、移送送迎サービス、緊急通報システムサポート」など、介護保険では提供できない様々なサービスが豊富にあります。気になるサービスがあれば、各自治体や地域包括支援センターに相談をしてみてください。
また、訪問介護事業者、NPO、民間事業者、シルバー人材センターなどの住民ボランティアによる「訪問による生活援助サービス」や「通所による活動援助サービス」も行っています。全額自己負担でも200~400円/回で、無料サービスのものもありますので、活用を検討してみてはいかがでしょうか。
高額の介護サービス費・医療費・医療合算介護サービス費などの費用負担を緩和する国の制度や、各自治体における独自の支援サービスとして、紙おむつ助成制度などの行政サービスがあります。ぜひ、各自治体のホームページや地域包括支援センターなどで調べてみてください。
介護の自己負担軽減のための制度の一例 | |
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高額介護合算療養制度 | 一年間における医療保険と介護保険の自己負担が著しく重くなった場合に、負担を軽減する制度です |
高額介護サービス費制度 | 介護サービスをの利用者が、一か月に支払った利用者負担の合計が負担の上限を超えたときに、超えた分が払い戻される制度です |
一人で悩みや負担を抱え込んでしまいがちの介護者にとって、悩みを共感してもらえる“相談相手”を作ることは介護疲れを軽減する上で非常に重要になります。
上記のような方と繋がっておけば、適切なアドバイスを聞けるだけでなく、コミュニケーションをとることで気分が晴れることもあるでしょう。「遠くの親戚より近くの他人」ということわざにあるように、いざという時に頼りになる方がいるだけで、悲観的にならず介護を行えるようになるでしょう。
自分に介護の知識や経験がないことで、余計ストレスや疲労が溜まり、介護疲れを引き起こしていませんか?もっと楽に身体介助ができるところを、身体に無理をして介助をしていたり、どう介護していいのか分からず自力で何とかしようとして、疲労困憊してしまったり……。実は、そのような悩みを抱えた方々に向けて、各自治体が“介護教室”を開催しており、介護に関する知識やスキルについて学ぶことができるのです。他には、ケアマネージャーなど、専門の方に相談をして適切なアドバイスを受けることで、「こんなに楽に身体介助が出来たんだ!」と驚くほどスムーズにスキルを習得できるはずです。または、「介護職員初任者研修」などを受講することで、介護の基本的な正しい知識及びスキルを習得することも可能です。きちんとした介護スキルは、要介護者も安心して生活できることできるので、信頼関係を高める働きもあります。
介護疲れを軽減しても“ストレス”は無意識に溜まっていくこともあります。介護ストレスを少しでも解消して、こころに余裕を持って介護と付き合っていきましょう。
介護ストレスの解消法として重要なのは「介護生活にオンオフをつけること」です。24時間365日、毎日のように介護に追われていてはストレスの捌け口がなく、突然病気を発症してしまう可能性も出てくるでしょう。介護に自分の人生すべてを捧げてしまうことはありません。仕事でもライフワークバランスの重要性が叫ばれているように、介護生活の中でも“介護の時間”と”自分の時間”のバランスが重要になります。上述した、「介護疲れ軽減方法」でも紹介したような、ショートステイやデイサービスなどを有効活用し、空いた時間で自分がリフレッシュできる趣味などに没頭して過ごすこともオススメします。また、介護の仲間作りに地元の“介護家族の集い”などに参加をして、孤独感を払拭することに時間を使うのも良いでしょう。
選択肢として“介護施設”への入居も |
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今回ご紹介した介護疲れの軽減法や介護ストレス解消法を試してみても、なかなか効果が実感できない場合は、介護うつや介護殺人、介護放棄という最悪の結末に至ってしまう前に、有料老人ホームやサービス高齢者向け住宅などの“入居”を考えてみてはいかがでしょうか。もちろん費用はそれなりにかかってしまいますが、介護者と要介護者が心身ともに穏やかに暮らせることがなにより大切です。選択肢の一つとして、どのような介護施設があるのか調べておけば、いざというときに困ることも少なくなるでしょう。 |