唐突ですが、54%(88万世帯)と聞いて何の数字か想像がつくでしょうか?
実は、この数字は、生活保護を受けている高齢者世帯(厚生労働省/「被保護者調査(平成30年5月分概数」)の割合です。生活保護は、皆さんもご存じの通り、生活するための経済力が不足している方を対象とし、一定の要件を満たすことで国から最低限の生活費が支給される制度です。
今回は、ここ数年で増えている高齢者世帯の生活保護や、そうした生活保護を受けている高齢者が老人ホームに入居できるのかについてスポットを当てていきます。
生活保護は、年金収入を含めた世帯収入が、世帯の最低生活費(厚生労働大臣が定める基準)の条件に該当するかどうかで受給が決まります。
もしも年金収入と世帯収入の合計が最低生活費を超えた場合は、生活保護を受けることができません。また、最低生活費を下回っていたとしても、「資産の活用」「能力の活用」「その他あらゆるものの活用」の3つの要件を満たしていないと生活保護を受けることができないのです。
生活保護はこのような制度ですが、高齢者世帯の生活保護受給者が増えている理由の1つを挙げてみると、年金に関する支給額や設定などにあると言えます。
国民年金は、保険料を20歳から60歳まで一度も欠かさずに納付したと仮定しても、満額で老齢基礎年金を受給しても78万100円(2019年度現在)です。これを12か月で割ると月に6万5,008円の受給額になります。決して多いと言えない受給額であることが分かりますが、高齢化が益々加速している現代において、その中でも収入が年金のみとなる高齢者や生活保護基準額よりも収入が低い方も沢山いますので、結果として生活保護を受ける高齢世帯の割合が増えているものと考えられています。
まず、介護扶助は、要介護認定を受けている高齢者であれば介護サービスを受ける対象となりますが、介護支援専門員(ケアマネジャー)が作成したケアプランを生活保護受給の福祉事務所職員(ケースワーカー)に提出することで手続きを進めます。もしくは、ケースワーカーに直接相談することで、候補となる老人ホームの情報を得ることができるでしょう。要介護認定を受けている生活困窮者に対して給付される介護扶助(生活保護法15条の2)は、介護保険と同じくらいの給付が保障されています。
そして、老人ホームの入居にあたっては、月々の家賃は住宅扶助、日常の生活費を生活扶助に割り当てて考え、いずれも生活保護の上限額内に収まる施設を選ぶことになります。こうしたことを踏まえ、所得に応じて負担軽減措置も受けられる特別養護老人ホームや、入居一時金を撤廃している老人ホーム、生活保護受給者向けの特別料金を設定している老人ホームであれば、上限額内に収まる可能性が高い施設になると考えられます。
次に生活保護受給者が老人ホームに入る場合の費用負担の考え方を見てみましょう。
生活保護には、介護扶助、住宅扶助、生活扶助、教育扶助、医療扶助、出産扶助、生業扶助、葬祭扶助の8つの扶助があります。それぞれの内容や範囲などの詳細は、下記の「生活保護法で定められている扶助の内容」をご覧ください。なかでも、この記事では高齢の生活保護受給者における老人ホームの入居をテーマとして書いていますので、介護扶助、住宅扶助、生活扶助、医療扶助などに注目しながら見ていきましょう。生活保護の支給額に関する計算は、世帯の最低生活費(生活扶助費+住宅扶助費+介護扶助費+医療扶助費)-世帯の収入(年金収入・扶養料等)=合計額(支給額)です。このうち、例えば、65歳以上の高齢者で支払いが困難な生活保護受給者の場合でも、介護保険料を支払う義務がありますので、こうしたケースでは介護保険料を生活扶助に上乗せすることで支払うような仕組みになっています。したがって、このような高齢の生活保護受給者は、利用者負担1割を介護扶助から支払うことになるのです。なお、最低生活費に関する保障の水準は、地域によって物価や地価などが異なるので一律ではなく、下記に記載した「最低生活保障水準(平成30年10月現在※参考例)」が参考になりますので併せてご覧ください。
生活扶助 |
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1.衣食その他日常生活の需要を満たすために必要なもの 2.移送 |
住宅扶助 |
1.住居 2.補修その他住宅の維持のために必要なもの |
介護扶助 |
1.居宅介護(居宅介護支援計画に基づき行うものに限る。) 2.福祉用具 3.住宅改修 4.施設介護 5.介護予防(介護予防支援計画に基づき行うものに限る。) 6.介護予防福祉用具 7.介護予防住宅改修 8.移送 |
医療扶助 |
1.診察 2.薬剤又は治療材料 3.医学的処置、手術及びその他の治療並びに施術 4.居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護 5.病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護 6.移送 |
出典:厚生労働省/「生活保護法( 昭和25年05月04日法律第144号)」
高齢者単身世帯(68歳) | |||
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1級地 | 1 生活扶助 79,550 | 住宅扶助(上限額)53,700 | 合計133,250 |
1級地 | 2 生活扶助 76,180 | 住宅扶助(上限額)53,700 | 合計110,180 |
2級地 | 1 生活扶助 72,010 | 住宅扶助(上限額)43,000 | 合計115,010 |
2級地 | 2 生活扶助 70,900 | 住宅扶助(上限額)35,000 | 合計105,900 |
3級地 | 1 生活扶助 67,860 | 住宅扶助(上限額)32,000 | 合計99,860 |
3級地 | 2 生活扶助 65,500 | 住宅扶助(上限額)32,000 | 合計97,500 |
高齢者夫婦世帯(68歳、65歳) | |||
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1級地 | 1 生活扶助 120,410 | 住宅扶助(上限額)64,000 | 合計184,410 |
1級地 | 2 生活扶助 115,680 | 住宅扶助(上限額)41,000 | 合計156,680 |
2級地 | 1 生活扶助 110,220 | 住宅扶助(上限額)52,000 | 合計162,220 |
2級地 | 2 生活扶助 108,570 | 住宅扶助(上限額)42,000 | 合計150,570 |
3級地 | 1 生活扶助 108,570 | 住宅扶助(上限額)38,000 | 合計141,820 |
3級地 | 2 生活扶助 100,190 | 住宅扶助(上限額)38,000 | 合計138,190 |
出典:厚生労働省「生活保護制度の概要等について」
※住宅扶助の額は、1級地-1:東京都区部、1級地-2:福山市、2級地-1:熊谷市、2級地-2:荒尾市、3級地-1:柳川市、3級地-2:さぬき市とした場合の上限額の
例である。
※平成30年10月現在の生活保護基準により計算。
※児童養育加算、母子加算、冬季加算(Ⅵ区の5/12)を含む。
高齢者世帯の生活保護をめぐっては、生活保護受給者を「無料低額宿泊所」などと称して施設に入居させ、生活保護費を奪い取るような悪質な商法が問題になっています。
こうした背景には、特に高齢者の場合にはマンションの賃貸契約が難しいことに加え、特別養護老人ホームなどは原則要介護度3以上で待機者数も多く、更に生活保護受給者は一定の条件を満たす必要があるため、高齢の生活保護受給者が老人ホームに入居するにはややハードルが高いためでしょう。「無料低額宿泊所」の全てが悪質な商法によって運営されている訳では決してありませんが、中には簡易個室などの劣悪な環境に生活保護受給者を住まわせ、毎月「利用料」と称して住宅扶助や生活扶助を徴収する手口により、生活保護受給者の生活保護費が手元に全く残らないような事業者があることをニュースでも報じています。生活保護受給者が老人ホームを探すときには、介護支援専門員や福祉事務所職員から入居に適した情報がすぐに得られなかったとしても、「無料低額宿泊所」で例に挙げたような一部の事業者には注意をしなければなりません。
最初に市区町村の福祉事務所職員に相談することが大切です。福祉事務所職員は、高齢の生活保護受給者も数多く対応しているので、生活保護受給者を受け入れる施設の情報を持っています。
高齢の生活保護受給者の多くは、できるだけ住み慣れた環境で暮らしたいと考えるのは当然のことですが、都市部が難しければ郊外の老人ホームを入居先として視野に入れるなど、環境を変えることでハードルを少し下げることも選択肢の1つとなるでしょう。