パワハラは上司からだけではない?!介護職のパワハラの実態と対処法をご紹介!
深刻な人手不足にある介護現場でも「パワハラ」に悩まされている職員はいます。介護職のパワハラの実態として、直属の上司や施設長などからのパワハラだけでなく、利用者やそのご家族からもパワハラを受けている現状があります。介護職員の離職率16.7%(厚生労働省調べ)がなかなか改善されない要因のひとつとされています。
そこで今回は、介護現場におけるパワハラの正しい対処法をはじめ、実際に介護現場であったパワハラの体験談や、パワハラかどうかの判断基準として使えるチェックリストもご紹介したいと思います。
パワハラの定義と介護業界におけるパワハラについて
昨今、“職場のパワハラ”は、業界・職種に問わず、社会全体の大きな問題となっています。参考までに下図のグラフをご覧ください。
このように、各自治体の相談コーナーに寄せられるパワハラの相談件数は、平成18年の22,153件からたった10年で70,917件にまで上り、今後も増えていくことが予想されています。
パワハラの定義
ここで2012年3月に厚生労働省が定義付けをした「パワーハラスメント(英Power Harassment・略パワハラ)の定義」を見てみましょう。
職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為
出典:厚生労働省「職場のパワーハラスメントについて」
さらに、どんな行為が具体的にパワハラとされるのか、厚生労働省が6つに類型化しています。
身体的な攻撃
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暴行・傷害
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精神的な攻撃
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脅迫・暴言・侮辱・名誉き損など
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人間関係からの切り離し
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隔離・仲間外し・無視
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過大な要求
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業務上明らかに不要なことや遂行不可能な業務の強制、仕事の妨害
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過小な要求
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業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた「程度の低い仕事」を命じることや仕事を与えないこと
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個の侵害
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私的なことに過度に立ち入ること
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※職場のパワハラのすべてを網羅するものではなく、これら以外が問題がないということではありません!
介護職のパワハラについて―上司からのパワハラだけではない
NCCU(日本介護クラフトユニオン)が2018年に行った「介護現場のハラスメントのアンケート調査」調べにて、利用者やそのご家族からハラスメントを受けた経験のある介護職員の割合が発表されました。
結果はなんと、全体の74.2%の介護職員が、利用者やそのご家族からハラスメントを受けた経験があると答え、その内訳はセクハラが40.1%、パワハラが94.2%を占めています。
パワハラの内容としては、「攻撃的態度で大声を出す(61.4%)」、「他のヘルパーなどを引き合いに出し『△△さんはやってくれた』と強要する(52.4%)」といったものが過半数を占め、「バカ、クズなど人格を否定するようなことを言われる」とした回答も21.6%を占める結果となりました。
このアンケート調査結果でも分かるとおり、介護職員は上司や同僚だけでなく、サービスを提供をしている利用者やそのご家族からもハラスメントを受けていることが明らかになっています。
介護職員が実際に体験したパワハラ
それでは、実際に介護職員の方が体験したパワハラをいくつかご紹介したいと思います。
職場でのパワハラ体験
「介護付有料老人ホームで働いているのですが、上司である主任からパワハラを受けています。足を蹴られたり、怒鳴られたりと上司とは到底思えないほどの行動ばかりで精神的にも身体的にもボロボロです。」
「特別養護老人ホームに勤めています。夜勤中の出来事なのですが、介助をしていた為にミーティングの時間を少し過ぎてしまいました。そうすると先輩社員が私と介助をしていた利用者さんの目の前まで歩いてきて『無視しただろ!』『上に言うからな』などと怒鳴り散らされました。」
「私はグループホームで介護福祉士として働いていますが、ケアマネージャーからのパワハラに日々悩まさています。感情のコントロールが出来ていないのか、すぐにカッとなって利用者や職員に暴言を吐いたりします。しかし、施設長の前では猫を被ったかのように大人しいんです。」
「小規模多機能型の老人福祉施設で勤務しています。同族経営の施設なのですが、そこのオーナー兼社長からある日を境に突然パワハラを受けるようになりに悩まされています。原因は未だに分かりません。利用者に私の悪口や根も葉もない噂、していないことまで私に聞こえるように言いふらしています。
また、利用者や他職員に私の個人的な情報を漏らしたり、インフルエンザにかかった際も『人員不足なのに休むのか!』と怒鳴られたり、雇用契約書や就業規則を無視した無理のあるシフトを組まれたこともあります。
わずかな休憩時間に休んでいても文句を言われたりなど、身体的にも精神的にも限界がきてしまい退職を決意をしました。」
利用者やその家族からのパワハラ体験
「介護職現場でのパワハラは日常的に起きています。利用者のトイレ介助時に足で頭を蹴られたり、噛みつかれたり…さらに利用者家族からの威圧的な態度もあります。もちろん上司にも相談したのですが、取り合ってもらえず…。現場で働く職員は誰が守ってくれるのでしょうか?」
「私は30代の介護福祉士です。利用者の方から毎日のように腕などを叩かれアザが消えません。「認知症」だからと家族も上司も理解してくれず、利用者からのパワハラに悩んでいます。私達は殴られても当たり前。私達が手を出せば虐待で訴えられる可能性も高いです。叫び回る利用者がいれば近所から通報も来ます。」
「結婚を機に一般企業を退職して初任者研修の資格を取りました。今はパートとして介護の仕事に就いています。
利用者から「子どもはいるのか」と聞かれ、いないと答えると大きな声で「それはもうできないわ!」と言われました。また、その利用者の入浴介助をしている時にも散々子どもができないことを罵倒されました。これも立派なパワハラだと思います。」
「有料老人ホームで介護スタッフしています。入居費用が高額なためなのか、利用者の中には介護スタッフを奴隷扱いし「あなたたちは奴隷だから、私達の世話をして当たり前」と、突然キレられたり、高圧的な物言いで、なんでも自分のわがままが通ると思っている方がとても多いです。セクハラも日常的にされます。毎日心が折れそうになります。」
「私は、障害のある方のお宅に伺う居宅ヘルパーと放課後デイサービスのスタッフをしています。昼夜問わず常に利用者が優先の毎日です。利用者やそのご家族からは『ヘルパーがいる間になるべく多くの事をやってもらおう』『時間外・サービスの範囲外だとしてもヘルパーさんが良い人ならやってくれるだろう』『安く雇える家政婦だ』と言われたい放題です。」
「サービス付き高齢者住宅の大型施設で介護ヘルパーをしています。利用者のご家族からの威圧的な言動に困ぱいしています。夜間は1名体制で働いているので、排泄のコールだけでも精一杯です。また、利用者の介護サービス中に緊急を要する事態のコールも鳴り止まないこともしばしば…。しかし利用者やご家族は、「母がコールを鳴らしてもすぐ来ないのはおかしい』『ここ(施設)を選んだ意味がない』などといったクレームが毎回のようにあります。現場スタッフの人員を考えるとすぐにコール対応出来ないことは入居時にご説明しているはずなのですが、なかなか理解してもらえません。」
以上の体験談からも、介護職員は殴る蹴るの身体的苦痛まで余儀なくされている環境が見てとれます、一刻も早いパワハラ対処が必要ですね。
介護職は「人」と関わる仕事であり接客のサービス業でもあります。「人」には必ず「感情」というものがあります。この感情のコントロールは、閉鎖的ともいえる環境の施設や居住空間の中では、介護をする側も利用者側も鬱々とした精神環境になってしまいやすくパワハラへと発展しやすくなるのでしょう。
パワハラチェックリスト―パワハラかどうかお悩みのあなたへ―
いくら職場の風当りの強いといっても“自分が受けてことは本当にパワハラにあたるのか”と悩む方もいらっしゃるかと思います。ぜひ、下記のチェックリストを参考にパワハラの判断基準にしてみてください。
1.身体的な攻撃
- □ 足で蹴ったり、殴ってくる・物にあたる・物を投げる
- □ 襟首や腕をつかみ説教される
- □ いきなり胸ぐらを掴まれる
- □ 髪を引っ張られる
2.精神的な攻撃
- □ 他の職員の前で叱責される
- □ 「給料泥棒」「役立たず」等、暴言を受ける
- □ 「いつでもクビにできる」等、脅される
- □ 陰口や悪い噂を流された
3.人間関係からの切り離し
- □ 仕事に必要な情報や指示を共有しない
- □ 挨拶しても無視され、会話を拒否される
- □ 飲み会や食事会に自分だけ誘われない
4.過大な要求
- □ 1人では無理な仕事量を与えられる
- □ 連日、徹夜仕事を強要する
- □ 上司から誤った指示があったのに始末書を書かされる
5.過小な要求
- □ 仕事を与えらえず、雑用を強制される
- □ 与えられる仕事が周りよりも著しく少ない
6.個の侵害
- □ 交際相手の有無を執拗に尋ね、結婚をすすめる
- □ 家族のことをしつこく聞く
- □ 毎日「ブス」や「ハゲ」などと呼ばれる
- □ 不在時に机上や鞄、ゴミを勝手に物色される
いくつ該当しましたでしょうか?数多く当てはまった方は、パワハラを受けている可能性があります。また、繰り返し受けている場合はとくに要注意です。
パワハラチェックリスト解説 |
「2精神的な攻撃」は、業務指導上必要だと考える方もいますが、人格を否定する暴言や脅迫、無視は、適切な指導の範囲を超えています。
さらに問題視してほしい設問は「3人間関係からの切り離し」についてです。介護現場は、利用者の“いのち”に関わる業務を行っています。「必要な情報や指示の共有」や「無理な仕事の押し付け」は、利用者の“いのち”にも関わる可能性が十分にあり、自分の為だけではありません、パワハラの対処を早めに行いましょう。 |
介護職でのパワハラの対処法!まずはご相談を!
パワハラは、一人で抱え込んで我慢をしても解決にはいたりません。いつかなくなると思って一人で抱え込んでいると、どんどんエスカレートしてしまう可能性もあります。
まずは信頼ができる上司や同僚に相談をしましょう!ただし、ここで注意すべきは”相談相手の見極め”です。
相談相手が信頼できる相手がどうかが非常に重要になります。相談相手を間違えてしまうと相談事を周囲に広めてしまう可能性もあります。親身になって相談を聞いてくれ、一緒に解決に向けて協力してくれそうかどうかの判断が必要です。
もし、本来は相談すべき上司からパワハラを受けている場合や、相談しても改善が見込めない場合は、本社(本部)の人事部や施設の相談窓口などに問い合わせてみましょう。しかし、規模の小さい施設では相談窓口を設けていないところもあります。そのような場合は社外の相談窓口に相談してみましょう。専門の相談員が面談または電話・メールで相談にのってくれます。
パワハラへの対処方法についてポイントをご紹介
パワハラの対処方法について必ず押さえておきたいポイントを2つご紹介したいと思います。
パワハラの証拠を残す
物的証拠はなによりも強い味方になります。「いつ」「どこで」「誰に」「何をされた」かをメモや録音機などで記録に残しておきましょう。
パワハラ被害の仲間を集う
介護の職場では、フロアやユニットごとにグループ分けをされて勤務している場合があります。より閉鎖的になりやすい職場ですが、あなた以外にもパワハラの被害に合ってしまっている方がいる可能性があります。そこで同じような被害に合っている仲間を集めることによって、信憑性も高くなり、施設側も対策に動いてくれやすくなるでしょう。また、情報の交換なども出来ることもメリットになります。
まとめ
介護職は、どうしても人手不足による長時間労働を強いられてしまいます。それよって精神的にも追い詰められ、ストレスの捌け口としてパワハラをしてしまう方が多いことでしょう。だからと言って、正当化していい問題ではありません、長い間一人で悩むよりも信頼できる人に相談をして、解決に努めることが大切です。
また、利用者や家族からのセクハラ・パワハラは、「お客様至上主義」から成るものでもあります。事業所ごとに、利用者の権利とともに介護者の権利も、等しく守られるようにして欲しいところです。しかし、昨今ついに厚生労働省がこの利用者やその家族からのハラスメントについて前向きな動きを見せています。2018年から利用者やその家族からのハラスメントについての実態調査にくわえ、被害を防ぐ為のマニュアル作成や制度改正にも繋げていく方針を掲げています。どんどん働きやすい職場が増えることでしょう、この情勢にのって環境が整った職場を探す転職も考えてみてはいかがでしょうか。