読者の皆さんは、「訪問看護」の仕事内容についてどのくらい具体的なイメージをお持ちでしょうか?介護には「訪問介護」といったサービスがあることは読者の皆さんもご承知の通りですが、今回は同じ訪問サービスでも「看護」について取り上げます。
「訪問看護」と「訪問介護」の違いもさることながら、訪問看護師と訪問介護士は混合されることも多いようですが、仕事も役割も似て非なるものなので、「いまひとつ違いが分からない」といった方は今回の記事を読んで区別できるようにしておきましょう。
そしてこれから「訪問看護」の仕事に就くことをお考えの方は、「訪問看護」の仕事内容を具体的に把握して、労働条件などから課題になりそうなことを見据え、実際の仕事現場でギャップがないようにしておきましょう。
「訪問看護」とは、看護師や准看護師等が行う在宅医療の1つで、「看護」を必要とする方の自宅や老人ホーム等の訪問し、看護の経験や医学の総合的な知識を活かしてサービスを提供します。患者は、病気や障害などを持っていて在宅療養する方が「訪問看護」を利用します。
いくつか例を挙げてみますと、認知症で正しい内服管理が必要なケースや、日常生活の能力が低下して入浴が困難なケースなど、こうした場合に訪問看護師が活躍します。
また、末期のがん、老衰、疾患による終末期の方が自宅で過ごすための「看護」サービスを提供することもあるでしょう。
更には、寝たきりの状態をきっかけに皮膚の血流が滞ってしまう皮膚病変「褥瘡(じょくそう)※いわゆる床ずれのこと」の処置や、「看護」で必要となる医療機器の管理、関節の運動や動かし方を指導するリハビリテーション、身体の清拭や排泄などの身体介護に至るまで、訪問看護師の仕事は様々なケースがあります。
以下、訪問看護師のより詳細な仕事内容を列挙しますので参考にしてください。
・病状の観察及び異常の早期発見 |
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(病気や障がいの状態、血圧・体温・脈拍などのチェック) |
・在宅療養の身体介護 |
(身体の清拭、洗髪、入浴介助、食事や排泄などの介助や指導) |
・薬の扱いや指導 |
(薬の作用、副作用の説明、飲み方の指導、残薬の確認など) |
・医療機器の管理 |
(在宅酸素や人工呼吸器などの管理、点滴の管理や使用方法の説明など) |
・医師の指示による医療処置 |
(点滴、カテーテル管理、インシュリン注射など) |
・床ずれ予防と処置 |
(床ずれ防止の工夫や指導、床ずれの手当て) |
・認知症の事故防止など、認知症介護の相談や工夫をアドバイス |
(利用者と家族の相談、対応方法の助言など) |
・介護予防 |
(食生活の見直しによる栄養面での改善、体操やレクリエーションなどを通じた運動能力低下の防止など) |
・ご家族等への介護支援や相談 |
(介護方法の助言から病気に対する不安の相談など) |
・在宅でのリハビリテーション |
(体位交換、関節の運動や動かし方の説明や指導など) |
・ターミナルケア |
(がん末期や終末期を迎えた方が自宅で過ごせるよう支援するなど) |
公益財団法人 日本訪問看護財団は、「訪問看護」について学びたい人のために、インターネットを使ってパソコンの画面を見ながら学習する方法「eラーニング」といった仕組みを提供しています。受講は、個人の場合で16,000円必要になりますが、インターネットが利用できるパソコンがあれば手軽に学習することができ、経験豊富な担当者ともメールでやりとりができるので便利です。以下、「eラーニング」で学べる内容を記載します。
訪問看護の役割、介護保険など保健医療福祉制度、訪問看護ステーション開設・運営の基礎、訪問看護の倫理など
地域包括ケアシステム、多職種連携、ケアマネジメント、在宅移行支援など
医療安全、労働災害予防、感染管理、災害対応など
訪問看護の対象(療養者、家族、地域)
訪問看護過程、訪問看護の実際・記録など
▶訪問看護展開のための知識・技術
療養生活の支援、フィジカルアセスメント、リハビリテーション看護、服薬管理など
▶医療処置別の知識・技術
経管栄養法、中心静脈栄養法、スキンケアと褥瘡ケア、ストーマケア、腹膜透析、在宅人工呼吸療法など
▶対象別の知識・技術
急変時、がん、認知症、精神、小児、難病、エンドオブライフケア
※出所:公益財団法人 日本訪問看護財団
訪問看護師の賃金について調べてみると、公的機関などによる調査では訪問看護師の賃金区分は見当たりませんが、2020年現時点での訪問看護士の求人情報や、現役の訪問看護士にも確認してみたところ、月収にして約30万円~35万円(諸手当込)に設定している訪問看護ステーションが多いことがわかりました。
この訪問看護士の推定賃金と看護師の平均賃金を比較してみると、看護師の月収が平均で33.2万円(厚生労働省の「平成30年賃金構造基本統計調査」)となりますので、標準もしくは、諸手当込の場合にはやや低い可能性が考えられます。
勤務については、各社で違いはありますが、訪問看護ステーションに入所した後、1日5件程度(1件あたり約30~90分程度)の訪問看護を対応し、土日は休みといったケースが1つの例として挙げられます。
これに加え、訪問看護ステーションによっては、宅直となる常時オンコール待機や夜勤が求められることもあるでしょう。
オンコール対応とは、会社から支給される携帯を自宅に持ち帰り、夜間や休日などの営業時間外でも、緊急の電話に対応できる状態にしておくことです。
そして、「訪問看護」は、業務の特性上、訪問先にて看護師が1人で対応することも多く、一般的には病棟経験が3年以上は必要だと言われています。
主治医からの指示書を頼りにしながらも、高齢者が住み慣れた自宅で療養生活が送れるようにするため、現場では看護の知識や経験を活かし、迅速な対応をするための行動力も求められることになるでしょう。
現在、訪問看護ステーションには、病棟や施設など様々な経験を持った看護師が従事していますが、訪問看護サービスを提供する業所として、その数にして全国で10,418(※2018年4月1日時点での稼働数の合計/出所:一般社団法人全国訪問看護事業協会)あることが確認されています。
「訪問看護」の仕事を経験した方の意見に目を向けてみると、辛いと感じるポイントは人それぞれではありますが、共通している部分も多く見受けられました。
ここでは、実際に仕事をしてみて、訪問看護師が仕事していて辛いと感じたことを列挙しておきます。実際に自分が対応することをイメージしていただき、経験者の意見を参考にしながら自身に置き換えて考えてみましょう。
辛いと感じた出来事は退職に繋がるケースも多いと思いますが、ここでは実際に訪問看護師が退職した理由について見ていきましょう。退職のよくあるケースとして5つの理由を挙げてみます。
辛いなと感じることはあっても、訪問看護師の仕事は魅力的であるポイントも沢山あります。人によって感じ方や大切にするポイントは異なりますが、その中でも魅力的なポイントとして挙げられる代表的な意見を3つほど紹介しましょう。
看護士で病棟経験であった場合でも、訪問看護と病院看護ではかなり違いがあります。
訪問看護は、看護師が1人で患者の居宅を訪問して対応するため、すぐそばにいる同僚などに意見を求めることができません。
そのうえ、病院の医療機器が整った環境で患者の対応ができないため、必要最低限の準備で処置をする技術力が求められます。
そして、患者の主治医をはじめ、ホームヘルパー、リハビリテーションスタッフ、医療ソーシャルワーカー、地域包括支援センターなどとも連携を図りますので、調整能力やコミュニケーション能力が求められるのです。
こうした業務の特性から訪問看護における適性を考えると、以下のようなポイントが挙げられます。
訪問看護師の職場を探す際には、特に労働条件や賃金などは注視しましょう。
例えば、オンコールの対応が必要であるか、夜勤対応などがあるのか、1日に何件ぐらいの訪問看護が必要なのか、残業代や諸手当はどうなっているかなど、せっかく勤めてもギャップがあると離職に繋がるケースも多いようです。全ての条件が合致することは難しいかもしれませんが、希望に合った職場であればミスマッチも起こりにくくなるはずです。